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星条旗のショアライン

第21章 ルーカス・リー(SPvsW/最終話)



(5)

ルーカスが掌を頬まで降ろして親指を差し伸ばし、陶然としている俺の唇の弾力を擽るように確かめ始めた瞬間だった。背後から空が裂けるようなとんでもない爆音が鳴り響く。すっかり油断していた身体がビクンッと跳ねて咄嗟に振り返れば、音響機材が積まれていた壁が粉々の瓦礫と化して四散し、大きく開いた横穴から何かの塊が飛び込んできたところだった。
「うわぁっ!?」
「うっ」
ほろ酔いの俺が本意気で戦慄くと磁石の反発みたいにルーカスが椅子から転げ落ちた。何故かって驚きのあまり無意識に突き飛ばしてしまったからなんだけど、思っていたより近くに顔が在ったみたいで掌にルーカスの頬の感触が残っている。顔から張り倒したらしい。
「ご、ごめんっ!」
アクターの顔になんて事を。怪我を作らせて後から多額の治療費を請求されても困る。ハンサムな顔が少しでも損なわれれば一体どれほどのファンから糾弾されてしまうんだ。数秒前までサイダーが美味しくて、お酒のせいか気分も良くて、俺に合わせてくれてるルーカスと一緒に過ごす時間も悪くないって思っていたのに、血の気が下がるのと同時に楽しい気分もどこかに下り落ちてしまった。
「ルーカス、大丈夫か……っ!?」
慌てて駆け寄る。頬を抑えながら軽く首を振って上半身を起こした彼の肩に手を掛けると、その手をキザったらしく掬い取るように握られて甲にキスを落とされた。今の流れでどうして。派手なリップノイズを鳴らして離れた唇は意外にも弧を描く。
「あぁいいな……リトルキャットから貰えるものならビンタでも嬉しいぜ」
「素直に謝りたいんだから気持ち悪いこと言うのマジ止めて」

(6)

「うぅ……っ」
「!」
瓦礫の崩れる音に混じって聞こえたのはスコットの呻き声だった。壁を突き破って飛び込んできたのは彼だったらしい。皆で楽屋へ向かった後に一体何があったんだろう。
有り合わせの資材とアイスストッカーの氷を使いルーカスへ簡易的な氷嚢を作って押し付けると、すぐさまスコットに駆け寄る。見えるところに限っても相変わらず外傷はないけど疲弊した表情を浮かべているみたいだ。大丈夫かと身体を気遣えば、片手を上げて心配ないよと呟いた。

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