• テキストサイズ

星条旗のショアライン

第21章 ルーカス・リー(SPvsW/最終話)



(7)

コールドカップが二人の演奏に合わせて空中乱舞するなかバトルはトッド優勢で進んでいく。スコットの奏でるコードも素人目から見て凄い技術だと惚れ惚れするのに、トッドは更にその上を行った。ベースは土台だけを演奏するわけじゃないんだと思わせてくれるから俺の楽器に対する偏見がことごとく打ち砕かれていく。それほどまでに芯があって格好良かった。
(かっこいー……)
しかしだ。見直した瞬間にトッドの演奏が一気に乱れた。心地良かった音程がバラバラになって零れ落ちていく。彼のエスパー能力が見せる可視化されていた分身も点滅したり、消えてなくなってしまったり。理由はわからないけどいきなりどうしたんだろう。頻りに俺とベースを見比べては戸惑った表情を浮かべて顔を真っ赤に染め上げる。ミスをしたから恥じてる……というわけでもなさそうだけど。その時、対バンを張るスコットが閃いた調子で演奏を止めた。困惑する俺が視線を配ると、また「手を貸して!」と良い笑顔で願ってきた。
(……)
……こうなったら乗り掛かった船って奴だ。手伝わなきゃ帰ることも出来ないなら早いところ決着を付けてお開きだ。酔いもかなり回ってきたから眠たいんだ俺は。お気づきの通り、この決断はやっぱり後程になって自分の首を締めるわけだけど、酔っ払いの決断力なんてそんなものだ。
その間、トッドが下り調子の技術を補うようにがむしゃらに掻き鳴らす低音がフロアを渦巻き始めて耳が痛くなってきた。スコットはこれ幸いとばかりに内緒話など更々する気がないくらいの声量で俺へ吠え掛かる。負けじと俺も声を張った。
「レイン、良く聞いて!」
「なに!」
「トッドはエスパーだ、きっと心が読める、そんな奴がこのフロアで一番知りたいのは君の考えてる事だ! だから考えて、トッドが『混乱すること』を考えて!」
「わ、わかんないよそんな事!」
「いま奴は調子を崩してる、直前にレインが考えた事が引き金なんだ! なにを考えた!」
「……トッドかっこいーなーって」
「きっとそれだ! トッドに気がある様な事を考えるんだ! どんな事でもいい、奴が動揺する様な過激な求愛をよろしく!」
「マジかよ」

/ 263ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp