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星条旗のショアライン

第21章 ルーカス・リー(SPvsW/最終話)



「なんで『アリス』って名前を知ってたの?」
とろけた頭で思いついたまま再び疑問をぶつけると、ルーカスは酒を舐める為に伸ばした舌をカップの縁に添えた瞬間、とうとう我慢できないといった勢いで失笑した。「今日はやたらと質問攻めじゃねぇか」と。「やっと俺に興味を持ってくれたんだな」とも。
彼が持つとプラスチックのカップがグラスに見えてくるから不思議だ……なんて意味の分からない感動に胸を高鳴らせていれば、ルーカスの無骨な手指が俺のこめかみに差し込まれて髪の毛を優しく梳き始めた。
「昔から数学が好きだった。語学はからっきしだったが、数字を見てるのは嫌いじゃなかった。これでもな。一番ハイな時に『数学』と名の付くもんを片っ端から調べた事がある。そん時に見掛けたのが、数学者『チャールズ・ラトウィッジ・ドジソン』だ」
「それがなんで酒の名前に繋がるんだ?」
「チャールズ・ラトウィッジ・ドジソンはルイス・キャロルの名前で児童小説を書いた。それが不思議の国のアリスだ。酒の方まで調べたのは完璧に気まぐれだったが」
「へえー」
「不思議の国のアリスなんて女の読み物だって初めは馬鹿にしてたが、ラモーナと付き合い出した頃に話題欲しさで読み始めたんだ。読み終わる前に別れたからなんの意味もなくなっちまったけどよ」
「……へえ」
確かにラモーナはルーカスとの出会いの場は『数学の授業』だと言っていた。てっきり数学に弱い者同士で支え合っている内に恋に発展したとか、数学に弱かったルーカスにラモーナが手を差し伸べて恋が芽生えたとかそういう顛末だと予想していたのに、以外にも彼の方が強かったわけか。しかも『一番ハイな時』って絶対にラモーナと付き合い始めて浮かれてた時じゃないのかな。案外可愛いところもあるんだなぁ。
そう思って呷ったベリーサイダーがさっきまでの飲み物とは別物みたいに苦くて吃驚する。急に何の味もしなくなった理由が分からずに首を傾げるしかなかった。

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