第21章 ルーカス・リー(SPvsW/最終話)
「気に入ってたろ」
「えっ……」
「うまそうに飲んでたじゃねぇか。違うのかよ」
「ち、違わない……あり、がと」
まさか見られていたなんて思いもしなかった。しかも好きだなぁと思いながら飲んでいた事も見抜かれていたとは。込み上がる照れ臭さで語気が尻すぼみになったのもルーカスにはお見通しみたいで、一人で酒を呷って男臭く笑う彼にカウンター越しから頭を撫でられ、耳まで熱くなってきた。なんなんだ急に尽くしてきやがって。す、すこーし、かっこいーなーとか思っちゃったじゃんか!
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酒精が立ちのぼるベリーサイダーを喉の奥に押し込み、歯に当たる氷をガリガリと砕く。悔しいけど凄く美味しい。果肉を噛み締めるとしゅわしゅわと炭酸が弾けた直後に甘みが追い掛けてきて、食品を食品で例えるのは愚の骨頂だけど『わたパチ』みたいだなぁと思った。たまにリキュールの濃いところが舌に触れると大きな熱の塊がいきなり体当たりしてきたような衝撃と出会すので終始、気の抜けない飲み物と化しているけど。
「うまいか」
「んむ……おいしい」
「そりゃあ良かった」
ルーカスは自分用に作ったソーダ割りを持ってカウンターを回り込むと、俺と肩を並べて座った。椅子が悲鳴を上げるくらい乱暴に腰を落ち着ける姿は尊大な印象から外れないのに、射し下ろされる瞳は優しく輝いてやまない。張り出した喉仏をゆっくり上下させて薄い琥珀色の飲み物を嚥下する彼は随分とリラックスしているように見えた。
「それ、なんて飲み物?」
「ただアリスをソーダで割っただけだ。見てたろうが」
「そうだけど……なにか名前あるのかなって」
「カクテルじゃねぇんだから名前なんかねぇよ」
「そっか」
普段なら腹立たしいと思う揚げ足取りまくりな台詞にも、酒に浸かった脳みそは反応を示さない。乱暴な言葉遣いを聞いていたって『ルーカスらしい』と思うだけだ。また、ルーカスらしいと思うと安心した。優しい言葉を並べられるとたちまち落ち着かなくなって焦りにも似た感情を覚えるのに、素っ気なくて粗雑な言葉をぶつけられると気持ちが穏やかになるって我ながらやべぇなと思うけど、今更そのスイッチは切れそうもない。
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