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星条旗のショアライン

第21章 ルーカス・リー(SPvsW/最終話)



「なに作るの?」
「出来上がるまで内緒だ、ダーリン」
ぱちんと自然なウインクを叩き込まれたって普段なら吐き気を催すのに、今日は何故か胸がぎゅっとして息が詰まる。ちょっと優しくされたらコロッと落ちるなんてそんな尻軽じゃないはずなんだけどな。それ以前にゲイじゃないはずなんだけどな。

(3)

「リトルキャット」
「ん?」
呼ばれて意識を向けるとベリーをミキサーに掛けている合間のようだった。唇が動いているから何かを話している事は分かるのにミキサーの激しい攪拌音が煩くて何を言っているのか分からない。蓋を押さえる大きな掌を軽く突いて注意を引き、「もっかい言って!」と叫ぶと合点がいったのか尚も面白そうに笑いながらミキサーを止めてくれた。
どうやら酒は飲めるのかと聞きたかったようだ。それに対して「少しだけなら」と返すと、彼は舌の奥を慣らして低く笑い、カウンターの下から琥珀色の小瓶を取り出した。不思議の国のアリスに出てくる『私を飲んで』の瓶みたいに小洒落た感じの可愛らしいボトルだった。
「彼女はこんなところにあるのが不思議なくらいの上物だぜ。スピリッツの中に梅の実を沈めたリキュールだな。かなり甘い味で口当たりは良いが、強い酒だから少し垂らすくらいでちょうどいい」
「すげぇ詳しいじゃんって言いたいのに酒を彼女って言った事に驚き過ぎて言葉が出なかったわ」
「これは正真正銘『彼女』だぜ。『アリス』って名前の酒だ。不思議の国のアリスから取ってる」
「マジで」
自分の直感が的中した事と思いのほか博識なルーカスへ素直に感動していると、恭しい手付きでコールドカップを差し出された。透明なカップを横から覗き込むと、果肉が浮かんだ表面から底に向かって果汁が沈み、綺麗なグラデーションになっている。見入っている最中にマドラーが差し込まれて下からゆっくり掻き混ぜられれば一瞬の内に全体が仄かなピンク色に染まった。
甘酸っぱい香りにリキュールの匂いも漂いだすと新しい飲み物を提供されたような気がしていたけど、もしかしてこれってライブが始まる前に飲んで美味しかった奴では。その時と異なるのはベリーの実が入っているか入っていないかだけど、香り付けされただけの奴より断然美味しそう。

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