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星条旗のショアライン

第21章 ルーカス・リー(SPvsW/最終話)



第三話

奥から現れたジュリーが「今すぐ楽屋に来て」と怒髪天を衝いた絶対零度な声音で吐き捨てる。主語の前後でキツめなスラングてんこ盛りの言葉を話す彼女に初対面のルーカスは顔を顰めているけど、あれは彼女の不機嫌な時の通常運転だからどうにか耐えて欲しい。反して慣れた様子のスコットは表情を曇らせるスティーヴンとキムの顔色を伺いつつも意を決したように歩き出した。
前座としてステージに立った『セックス・ボブオム』がメインアーティストの『ザ・クラッシュ・アット・デーモンヘッド』の楽屋に招待されること自体は特別おかしな話じゃないけど、トッドが『邪悪な元カレ軍団』の三番目だと判明した今となっては『例の話』の為に呼ばれていることくらい分かっているのだろう。

(2)

『セックス・ボブオム』のメンバーや当事者のラモーナは勿論のこと、ナイヴスとニールまで連れ立って楽屋に向かってしまったからルーカスと二人きりになった。そうなったところで特に話す事もないし『帰宅』の二文字が脳裏を掠めたけど、ルーカスが逞しい脚を漕ぎ出して無人のバーカウンターに颯爽と入っていったことで霧散した。勝手に冷蔵庫を開けて飲み物を漁り始める姿を見て、ワガママ王子が何をするか分かったもんじゃないから最後まで面倒を見なくては……という使命感に駆られてしまったのだ。
(……)
マナーのなっていない連中が捨てて行った空のコールドカップが床に散乱している中をとぼとぼ歩いてバーまで辿り着く。脚の長い椅子に座って席に収まる頃には、ルーカスが冷蔵庫から爆弾みたいな形のボトルとボウルいっぱいに収まるミックスベリーを取り出すところだった。
「それなに?」
「サイダーだろ」
「爆弾かと思った」
「ああ……面白いこと考えるんだな」
机上に置かれたボトルの中で確かに小さな空気の粒がぷくぷくと踊っている。その向こうで比較的柔らかく笑みを噛むルーカスに不思議と心がざわめいた。しょうもない軽口に強い言葉で返事をしない、台詞に聞き取れないアクセントを使わない、今までの彼とは百八十度異なる柔和な雰囲気に驚きを感じていたけど、それ以上に、俺に歩み寄るような姿勢が垣間見えて絆されかけているのかも。

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