第20章 ルーカス・リー(SPvsW/第二話)
トッドが前奏部分の演奏を始めると、エンヴィーがすぐさま現れる。ボンテージを思わせるブラックの合皮スカートは、俺が立つ最前からは見えてしまうのではないかというレベルで丈が短くて挑発的。真っ赤なベルトを編んだ膝下のロングブーツも脚に巻き付くようなモデルでほとんど素足に近い。一言でセクシーな衣装だ。それでいて無理のないツーサイドアップが可憐でギャップが堪らない。
普段なら彼女が唇に歌を乗せ始めれば結局はそちらを意識してしまうけど……今日はそうもいかない理由ができた。何故か、なぜだかトッドが俺を見据えている。勘違いだと思いたかったけど、どう見てもばっちり視線が絡んでいる。
(こういう時は本当に視線が合ってるとは聞くけど……)
それにしたって見過ぎでは。真っ黒な瞳に囚われて俺の緊張はピークに達した。交わるわけが無いと思っている一方的な崇拝が一変してリターンがあるとか今にも吐きそう。「かっこいいまじかっこいいなにあれかっこいい」と叫んでから自覚したのは、語彙力も死んでしまったようだという事だった。
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ライブが終わっても全身の火照りが収まらない。ずっとトッドと俺の世界みたいな感じだった。外される視線は一旦楽器に落ちるけど、必ずまた俺を見に戻ってくるのだ。ステージの高さやライトの当たり方なんかで条件が重なって、視線を落ち着けられる調度良い位置に俺が居たのかもしれない。
「あぁ~……でもこんな幸せあっていいのか~……」
偶然とはいえ推しに見詰められる三分半は幸福、いや、僥倖のひと時だった。俺が女性なら腰砕けになってたレベルだ。堪らないと思う。やっぱりトッドの顔と筋肉が好きだなぁ。ああなりたいなぁ。
「リトルキャットッ!」
「おあっ?!」
頬に手を当てながら熱を冷ましていると、今まで静かだったルーカスがとつぜん吠えて俺の身体を剛力のまま反転させる。そのまま両肩をがっちりと掴んで顔をうんと近くまで寄せてきた。指が骨と筋肉の間に食い込んでいく痛みに悶絶する。
「ちょっ……色々言いたいことあるなぁっもうっ!」
「あのベーシストッ」
「っあ? トッド? 彼が何? 知り合い?」
「見た事ある顔だと思ったぜっ、アイツは昔、俺からラモーナを奪った男だっ」
「……はっ?」
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