第20章 ルーカス・リー(SPvsW/第二話)
(あ……)
そしてスコット達が袖に引っ込むと俄に周囲が色めき立つ。訳知り顔した全員が昂りを隠しもせずにステージ側へと黒波を揺らしながら前身していく。『ザ・クラッシュ・アット・デーモンヘッド』の強みはその近さだ。普通、ステージとフロアの間には数メートルのセーフティゾーンが設けられ、スタッフを均等に配置する事によってアーティストを様々な要因から保護する。
でも『彼ら』はそれをしない。間近でエンヴィーが歌い、闊歩し、キーボードを演奏する。美しい脚に触れる不届き者も中には居たかもしれないけど、彼らはどんな事があろうともデビューしてからそのスタンスを変える事はなかった。
やっぱりそんな中で俺はトッドの演奏を目の前で見ていたい。他の人が中央に寄る一方でステージの左側へと吸い寄せられていく。向かって左からベース、ドラム、ヴォーカル……この並びが『彼ら』のフォーメーションだからだ。ルーカスはあくまで興味が無いのか、周囲を窺いながら俺の後ろを着いてくるだけだった。
後から聞いた話だけど、少し離れたところで俺を見つけていたスコットから『ルーカスが番犬みたいにレインを守っていた』と聞かされて単純に気持ち悪かった。何から守ってたの?
(8)
大層仰々しい司会が『彼ら』を呼び込む為の演出の一環として照明が落ちる。会場全体が揺れるようなドラムロールに包まれた事でライブの始まりを直感したファンは次第に黄色い声を上げ始めた。身を揺らして独特のリズムに乗り、興奮のまま指笛を響かせたり雄叫びを上げる猛者も出てきて。俺には真似が出来ないような派手な反応を見せるファンに圧倒されつつも必死にトッドの前を陣取り続ける。
(あっ……!)
バンド名が告げられる直前、曲の入りの際、とうとうトッドが袖から姿を見せてベースを吊るベルトへ頭を潜らせた。慌てもしない、昂りもしない、淡々とした動作で愛用の楽器を引き寄せるその姿たるや。かっこいい!
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