第20章 ルーカス・リー(SPvsW/第二話)
「……っ」
彼の家の前で絶望に立ち竦むしかない俺の手の中でザ・クラッシュ・アット・デーモンヘッドの二枚の招待チケットはくしゃくしゃに歪み、Lの欄が表示されたスマホは嫌な音を立てて軋んだ。
(5)
「待たせたな、リトルキャット」
会場の入口で肩を叩かれて緩慢な動作で振り仰ぐと、濃いスモークのサングラスを掛けたルーカスが男臭い笑みを噛みながら隣に立っていた。チケットが勿体ないからとダメ元で連絡してみたら無理やり予定をこじ開けて来てしまうなんて思わなかった。撮影はどうしたのかと尋ねると「優秀なスタントチームに任せてある」と演技掛かった派手な動作で応えてきたのでお察しだ。あいつらもワガママ王子に振り回されてるんだなぁ。
(……)
ウォレスに対する不安から自棄を起こして本当にルーカスへ連絡するなんてどうかしていた。スターのフットワークが思いのほか軽かったせいで本当に誘えちゃったけど、こんなの、ウォレスにもルーカスにも不誠実だった。ちゃんと謝ろう。
「ルーカス」
「なんだ」
「今日やっぱり帰ろ?」
「いきなりデートをすっ飛ばしてベッドのお誘いとは見かけによらず旺盛だな、ますます気に入ったぜ!」
「俺は『お開きにしよう』って意味で言ったんだけどテメェ何言ってんの?」
「照れんなって」
「っ!」
色惚けゴリラに腰を抱かれた矢先、こめかみへ唇を押し付けられた。突沸した苛立ちのままにサングラスを奪い取り、ザ・クラッシュ・アット・デーモンヘッドのファンがひしめく雑踏の中へ思いっきり投げ捨てると、分厚いシークレットブーツを履いた女の子が見事にレンズからフレームからを粉々に踏み砕いた。
高価な代物だったのか、それを間近で目撃したルーカスの顔が露骨に引き攣る。このまま怒って帰ってくれれば良かったのに「……キャットのいたずら好きには参ったな」と首を捻って筋を鳴らしながら必死に感情を制御していたので、ちょっとだけ罪悪感が湧く結果になった。
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