第20章 ルーカス・リー(SPvsW/第二話)
「いつやるの?」
「今夜だ!」
「そっか。応援しか出来ないけど頑張ってね」
ニールのママさんが揚げてくれたお皿いっぱいの熱々フライドポテトとフィッシュをもきゅもきゅと頬張りながら草臥れたソファに座っている俺にスティーヴンは興奮に逆上せたまま頷いてみせる。ヘドバンもかくやで首がもげそうだ。
「そうだ、レイン。これ」
チューニングしていたスコットはおもむろに棚の上に手を伸ばして二枚の長細い紙を摘むと俺に差し出した。手指がポテトの油まみれだったからとりあえず身を乗り出して紙面を覗き込めば『ライブチケット』の文字。その下に招待券という魅力的な文字も見えたので察した。
「マジ?! ライブに招待してくれるの?!」
「そう。二枚あるからウォレスでもルーカス・リーでも誰でもいいから誘って一緒に来てよ。勿体ないから」
「いや二人目おかしいじゃん」
(3)
あの日、確かにスコットはルーカスをノックアウトした。スケートボードを得意とするルーカスを焚き付けて手摺を滑り降りる大技『グラインドボード』を実行させようとしたのだ。高台にある公園から一番低い場所までの傾斜がキツい長い距離を滑る危険な行為を強いたわけだけど、階段状の歩道に沿って幾度も直角に曲がる手摺だったし、そのせいで時々ジャンプの小技を挟む必要があった。
最初はルーカスも「俺に危ない橋を渡らせる気か?」とスコットの挑発を読んで断りかけていたのに「レインが見てるけどいいの?」という更なる挑発を受けて目の色を変えてしまった。てっきりさっきまでの流れから、格闘に持ち込んでワンパンチ一発ノックダウンみたいなバトルを想像していた俺は、周囲に自前のミスリルスケートボードを持ってくるよう催促していたルーカスに飛び付く羽目になった。「待てよ危ないだろ!」なんて子供みたいに必死に。
となればルーカスはこう思ってしまったに違いない。『やっぱりレインは俺に気があって心配してくれているのだ』と。俺から言わせてもらえば相手がルーカスじゃなくてもこんな危険行為は止めている。スコットやウォレスだろうと見知らぬプレイヤーだろうと止めていたに違いなかった。注意一秒・怪我一生だからね。
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