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星条旗のショアライン

第20章 ルーカス・リー(SPvsW/第二話)



第二話

スコットは『セックス・ボブオム』という三人組バンドのベーシストだ。世間体良く休職中と言っているが要するに無職の彼には時間がたんまりあって、そうなると昼夜問わずニールの家で練習に励む日々を過ごしていた。
俺は音楽の何たるかをまるで知らない素人だけど、彼らの曲がとても前衛的で個性的な事は分かっていた。鬱々と燻っている存在ゆえの闇深さが滲み出ているというかなんというか。それを言ったら怒られそうだということは漠然と理解しているから伝えたことは無い。彼らとは対照的に心に響くメロディを奏でる存在もいるっていうのに。才能って本当に恐ろしい。
才能といえばモントリオール出身の『ザ・クラッシュ・アット・デーモンヘッド』は別格の人気を誇る存在として有名だと思う。女性ヴォーカルのエンヴィー・アダムズによる色気のある透き通った歌声とキャッチーな歌詞も若者の心を掴んで離さないという、向かうところ敵無しのメジャーバンドだ。
個人的にはスコットと同じベーシストであるトッド・イングラムのクールな演奏が好きだったりする。高身長の彼が手元のエレクトリックベースを中心にほぼ不動のまま高度な演奏をする姿は圧巻の一言。
彼には惹かれる魅力が山ほどあった。小市民である内は決して真似出来ないようなブリーチしただけの奇抜な髪色は先進的だと思うし、男らしく整った顔が格好良くて惚れ惚れするし、厚い胸板や上腕の鍛え抜かれた筋肉にも憧れる。男女問わず惹き付ける存在って非の打ち所がなくて罪深い。ベクトルは違うのに、スコットといいトッドといい『ベーシストはモテる』って噂は本当なんだなぁ。

(2)

「『ザ・クラッシュ・アット・デーモンヘッド』の前座?」
「そうさ、向こうから直々の申し出だぞ!」
スティーヴンは大声で吠えた途端に自分の台詞から並々ならぬ事態であることを再認識したのか、更に興奮した様子でガッツポーズを繰り返した。『セックス・ボブオム』の行く末を一番危惧していたのはギターの彼だから、一皮剥けるチャンスを目の前にして浮き足立っているんだろう。しかもそこに有名な音楽プロデューサーが居合わせるかもしれないとあってテンションが最高潮まで登り詰めていた。

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