第19章 ルーカス・リー(SPvsW/第一話)
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(違う! ウォレスのコートだから! ウォレスの匂いだから!)
スタントマンが俺に執着する理由とルーカスの台詞に全てが繋がって血の気が下がった。まてまてまてこれは借り物だから俺はゲイじゃないし相手を探してるわけもない。そう説明したいのにルーカスの大きな掌が顎を鷲掴み、喉をぐんっと引っ張るから声帯が潰れて全く声が出せない。スタントマンにコートも捲られてしまって尻を撫で回され始めたところでいよいよ穢されているような気分になってきた。吐きそう。
「助けて欲しいか、威勢の良いリトルキャット」
「……っぐ」
「聞いてるんだ。イエスなら頷け」
これは悪魔の囁きだ。身内の不始末を棚に上げて『助けて欲しいか』だと。本音を言うと助けて欲しい、だからってルーカスには頼りたくないし頼ったら危険な見返りを求められるに決まってるから絶対に絶対にぜーったいに『イエス』だなんて言わない。何を考えているか分からないけど、思い通りになんてなってやるもんか。
処刑台の上に在っても頑として頷かない俺に痺れを切らしたのか、ルーカスは舌打ちをひとつ打ち鳴らすとスタントマンに向かってシンプルなフィンガーサインを送った。人差し指と中指を揃えてから空を切るように振る、所謂『GOサイン』。
するとどうだろう。指示を受けた男は明らかに呼気を荒らげて興奮し始める。胴体を腕ごと抱き締めていた手は腰元まで降りて骨盤をがっちりと掴み直すと、尻の狭間へ完全に息子を密着させて腰を大きくグラインドしてきた。その瞬間、背筋におぞましい程の寒気が走り抜ける。
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「やだやだやだやだぁぁっ! ごめんなさいたすけてなんでもするからたすけてルーカス・リーッ!」
ウォレス、スコットごめん。俺は意思の弱い男でした。所詮は弱き存在でした。やっぱり無理。男のエレクトしたディックを尻に擦り付けられるとか無理。大男に挟まれてる状態から一人で何とかしようとか無謀だった。
いつの間にか喉の圧迫は無くなっていて、拘束していたルーカスの手が離れている事に気付く。代わりに奴は誘うように腕を広げていた。自らの顎先をついっと振る仕草は『来い』ってことなんだろう。俺は男を振り切って迷うことなくその腕の中に飛び込んだ。
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