第19章 ルーカス・リー(SPvsW/第一話)
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スコットを立たせて怪我の有無を確認しがてらボトムの汚れを払い落としてあげると、傍観していたウォレスが平坦な声音を活用して「レインに甲斐甲斐しく世話をやかれるなんて恥を知れよスコット」と彼を脅した。脅す前に助けてあげれば良かっただろうに、友人として恥知らずはどちらだ。
「退け」
不条理に対してふつふつと怒りを沸かせていた俺の肩をルーカスがいよいよ苛立たしげに引いてきた。そうだよな、用があるのはスコットだもんな。でも突然、友人の顔面を殴るような奴に道を開けるわけにはいかない。
「退きません」
「威勢のいいガキだ、嫌いじゃない。こんな時じゃなけりゃ相手をしてやるが今は困るんだ。退け」
「困ればいい」
「……」
生意気な俺の口振りにルーカスの表情が完全に抜け落ちた。代わりに純粋な殺意が脳天から足先までをひたひたに充たしてくる。圧倒的な体格差、威圧感、目力。どれを取っても俺に勝ち目はない。男としても雄としても。でもわけも分からず大切な友人を傷付けられて静観していられるほど人間が終わっているわけじゃない。見た目と個体で勝てないなら心意気で勝負だ、変な眉毛め!
「……」
「……っ」
スコットを後ろ手に抱き締めて庇い、ルーカスを一生懸命に睨みあげる。俺だって殴られたところで血は出ないんだからな。SNAPとかZAPとか効果音が特殊演出で画面に入るだけなんだからな。痛みはあるけど。
震える脚を隠すようにコートの合わせを掴んでゆっくり後退すると、背後のスコットが俺に勢い良く抱き着いてくる。恐らく怖いのだろう、俺だって怖いけど彼を守ると決めたんだからしっかりしなくちゃ。しきりにコートを脱がせる様な腕の動きがちょっと不気味であっても気にしている暇はない。少しずつ獰猛な獣から距離を取っていく。
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「レインー」
「!」
ルーカスの肩越しにウォレスが手を振ってきた。こんな切迫した場面でなんて呑気な奴だ。一度無視を決め込もうとしたがウォレスは何度も俺の注意を引こうと名前を呼ぶので仕方なく折れて応える事にした。
「なに!」
「君、誰に抱き締められてるか分かってるー?」
「スコット以外に誰が!」
「ルーカス・リーのスタントチームのひとりー」
「……は!?」
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