第19章 ルーカス・リー(SPvsW/第一話)
「ねえ、帰ろう」
ラモーナが急に声を鋭くした。スコットが理由を聞くと「彼、元カレなの」と辟易に沈んだ返事をする。「凄い! 有名人が恋人だったの!」「中学の時よ、数学の授業で会ったの。あの時の彼は鼻垂れ小僧だった」「スターも鼻を垂らすの?」となんだかよく分からない会話をしているのが気になったけど、突然ルーカスが「スコット・ピルグリム!」と怒声を発した事で事態が急速にややこしくなった事を悟った。
(えっと……)
つまりこういう事か。ラモーナは、ウォレスが応援している人気俳優であるルーカスと中学時代に数学の授業で出会っていてお付き合いしていたけれど、今はスコットの彼女である、と。……ややこしい。ややこしいな。
ウォレスは「やれやれ」と首を振るきりで特別ショックを受けたような感じはない。スコットも元カレ登場で闘志がメラメラと燃え上がっているのかと思えば有名人のサインを欲しがっていて、そうでもない。肝心のラモーナはというと表情を歪めるものの戦慄いたり怖がったりという反応は全くしていない。蚊帳の外の俺が言うのもなんだけど、君達なんか落ち着き過ぎじゃない?
(5)
「スコット!」
見るからに怒り狂うルーカスへ呑気にサインを欲しがるスコットもどうかと思うけど、邂逅した途端に顔面に拳を突き立てるルーカスもどうなんだろう。しかも二度も鼻っ柱を殴るなんて正気じゃない。
まあ不思議と血が出る概念がないこの世界においては『鼻血』という演出がないけど、地に伏す友人が心配じゃないといったら嘘になる。倒れるスコットを見下ろすだけのウォレスとラモーナは性格上の問題で助け起こす発想には至らないらしい。だけど俺は助けるからな、待っててスコット!
「スコット、スコット大丈夫?」
「レイン……天使が見える」
「えっ!」
「僕のことを心配してくれる和製天使が目の前に」
「ああ……ああー……」
「ジョークに乗るのが本当に下手だね」
「面目ない」
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