第19章 ルーカス・リー(SPvsW/第一話)
(2)
「俺も行くのぉ?」
「どうせ暇だろう」
「まあそうだけど」
「何が不満だ」
「寒い」
「なら俺がベッドの中で温めてやるよ」
「さ、行こっか」
「レインのそういうところ愛してる」
ホットコーヒーを買いに出ただけの俺の腕をいやに離さないなと思ったら撮影現場に同伴させるつもりだったらしい。まあさっきまでウォレスが着ていたコート借りてるし手袋もマフラーもちゃっかり借りてるし、少しぐらい付き合っても良いかとひとり納得する。
「彼氏の上着や防寒具はどう。少し大きいかな」と、いつにも増してその手の冗談をかましてくるウォレスが鬱陶しいけど象牙色の肌が痛々しいくらい真っ赤に凍てついていて可哀想だから、ホットカフェオレをご馳走する事にした。昔から奢ると冗談の口を閉じる傾向にあるから一石二鳥だ。
コーヒーショップを出て二人で温かい飲み物をくぴくぴと呷りながら目的地へ向かう。ルーカス・リーはこの先の高台にある公園で撮影しているらしい。いよいよ噂の俳優をこの目で見られるわけか。
(3)
どデカいトレーラーが一台停車しているのを見て「あれか」と思わず声が出た。あのトレーラーの中にルーカス・リーが居るらしい。どんな外見で、どんな演技をするんだろう。それまで全く興味の無かった事もウォレス一押しとあって段々と気になってきてしまった。
そわそわと身を揺らして辺りを忙しなく見回す俺の隣に立ったウォレスは少し不満そうに頬を甘く抓ってくる。大好きなルーカス・リーに新たなファンが付くかもしれないという嫉妬心だろうか。ならどうして連れて来たりしたんだろう。
「いたいっ」
「浮気はするな、レイン」
「は?」
「俺がいるのにルーカスに骨抜きになったら許さない」
「言ってる意味が分からないんだけど」
「俺がいるのにルーカスに骨抜きになったら許さないって意味だよ」
「そのまんまじゃん」
「ああ。そのまんまさ」
ルーカス・リーは万民に人気の俳優なだけにハンサムなのは確実だろうから目を奪われる事はあると思うけど、骨抜きになるなんてこと有り得るのだろうか。ウォレスみたいに俺もゲイだったなら可能性もあったかもしれない。でもノーマルである限りはその発想まで到達しそうになかった。
「俺はウォレスくらいしか親しい人作りたくないよ」
「レイン……!」
「あとスコット」
「……ああ、うん」
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