第18章 ケヴィン・ベックマン(GB2016/MCUクロス)
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アンティーク調のランプが並ぶショーウィンドウを冷やかしに外から眺めていると、ガラス越しにスティーブが微笑みを噛みながら俺の背を見詰めている姿が映って重い溜め息が出る。結局あの後は「僕も行こう」の一点張りで譲らなくなり、渋々同行を了承したという形だ。
にしても悪目立ちしている。センスが七十年以上前で止まっている彼の服装は壊滅的に単調で、悪く言えば他者の印象に残らぬ様に逃亡を繰り返す指名手配犯のように全身を黒一色でまとめてしまっていた。唯一タンクトップのみが白であるだけ。
「ナターシャに選んでもらった服があっただろう」
「僕にはこれが楽な恰好なんだけどな」
「素材が良いのにお洒落をしないのは勿体ないと思うぞ」
「……レインにそう言って貰えると嬉しいよ」
つい漏れた本音にしまったと思う前に照れを面に出したスティーブが顔すら見えなくなるほどキャップを深々と被る。怪しまれるぞと呆れ半分で袖を引くと、彼は「別にいいさ」と囁いてから手を握ってきた。指の股を撫でるように絡める……いわゆる恋人繋ぎというやつだ。驚いて見上げると自慢げに互いの拳を掲げられる。なんのつもりなのか分からずに目を白黒させていれば、直ぐ背後から待ち人の声が降ってきた。
「レインくん、待ったかな」
「わっ……」
振り仰ぐとやはりケヴィンだ。もう何か食べている。包みから察するに最近ニューヨークに上陸したばかりのジャパニーズフードのようだ。雑誌の情報だと『おにぎり』は白い米を握ったものの筈だが、次々に口へ頬張られていく米は茶色い。なにかソースが塗ってあるのか仄かに香ばしい匂いが降りてくる。
派手なピンクのストライプシャツにブラウンのベストとボトム、ネクタイにハットにお決まりのレンズ無し眼鏡で服装はばっちり決まっているのに手には可愛らしいサイズのおにぎり。そのギャップに思わずクスリと失笑すると、ケヴィンは最後の一口を舌の上に落としてから優しく微笑んだ。
「美味しかったか?」
「うん」
「そうか。あと、ほら、また汚してるぞ」
「どこ? この前みたいに取ってよ」
相変わらずケヴィンは汚した方とは違う方を触る。指は奇跡的に米粒とソースを捕えられずに頬の上をうろうろうろうろ。やきもきするけれど、俺の手は痛いくらいにスティーブに握られているので取ってやることは出来ないのだ。頑張って!
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