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星条旗のショアライン

第18章 ケヴィン・ベックマン(GB2016/MCUクロス)



(2)

翌日。スティーブがコーヒーを啜る横で気分良く支度をしていた時に「そんなに浮かれてどうした」と問われて即答しなかったのが不味かった。姿見の前でネクタイを結んでいた手を止め、緩んでいた頬を緊張で引き攣らせてから「……なんでもない」なんて、明らかに含みのある返事をした俺の軽率さときたら。やはりスティーブは訝しがってソーサーにカップを戻すと肉厚な下半身をカウチから持ち上げて俺に近付いてきた。
鏡越しに俺を見つめる澄んだ空の青。すっかり目が泳ぐ俺を他所に肩をがっしりと掴んでくると耳朶を噛む勢いで唇を寄せてきた。「どこかに行くのか……僕に黙って」との低い囁きは俺を大いに混乱させ、どうにも耐え難く、怯えながら真実を吐露するに至る。案の定、彼は俺の外出をあっさりと却下した。
「ダメだ」
「友人に会いに行くだけだ」
「許可しない。素性も知れない奴に会いに行かせられない」
「素性なら分かっている。働き口も見付けている男なんだから犯罪歴もない筈だ。変な勘繰りは止してくれ」
「その就職先が問題だ。ゴーストバスターズだって? そんな胡散臭い仕事は信用出来ない。怪奇現象を餌に使って市民の不安を煽る連中だ」
「ケヴィンは他人を不安にさせるような真似はしない!」
「……へえ、相手は『ケヴィン』というのか」
「!」
全くもって美しいとすら思える誘導尋問だ。まんまとケヴィンのことを根掘り葉掘り聴取された挙句に最後の砦であったファーストネームまで引き摺り出されてしまった。二の腕へ降りる熱い掌は筋肉を確かめるみたいに優しく撫でる癖に、爬虫類が獲物を丸呑みする寸前の狡猾な焦らし行為にも思えて息が詰まる。鏡越しで行われた攻防はスティーブの勝利で終わろうとしていた。

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