第18章 ケヴィン・ベックマン(GB2016/MCUクロス)
「ひとつ良いかな」
ケーキハウスの正面は小さな池が浮かぶ公園だ。ほとりに並ぶベンチに移動しながら切り出せば、彼は小首を傾げながら俺を見下ろす。よく見ると服装もかなりハイセンスで髪型も違う。極めつけは眼鏡だ。レンズの入っていない黒縁眼鏡。『彼』はこんな格好を決してしないだろう。顔の雰囲気が似ているだけで赤の他人に話し掛けてしまった失態に首から上がきゅうっと熱くなるのを感じながらなんとか唇を震わせた。
「俺達は今日初めて会ったばかり……だよな」
「僕は君を知ってるよ」
「え?」
「新聞に載ってたよ。キャプション・アメフリの横に居た」
「……誰だ」
新聞に載る程の大物でそんな名前の知り合いは居ない。ケーキの箱を広げながら今度は俺が首を傾げる番だった。横から伸びてきた一対の腕がケーキの中からチョコレートを攫っていくのを目端に捉えながらうんうん唸るも、事の重大さに思い至って慌てて箱をベンチの脇に置いて彼の手首を掴んだ。
「待て、それは他人へのお土産だ! 君はミルクレープだと言っただろう!」
「ミルクレープはあまり好きじゃないんだ」
「……ではモンブランならどうだ」
「あまり」
「なら施しはしてやれない。今すぐケーキを箱に戻しなさい」
間一髪とはこの事だ。ケーキの端が唇で食まれる寸前だったのを阻止できた。幸い彼は保護シートの上からケーキを持っていたから見た目で分かるほど崩れてはいないし大丈夫だろう。胸を撫で下ろして箱を持ち上げ、彼の目の前に広げると、何故か、なぜだか彼は左手を伸ばしてモンブランを攫った。待て待て待て!
「おい、戻せと言ったはずだぞ! 誰がモンブランもやると言った!」
「美味しそう」
「あっ…………食べたな……ったく、欲望に忠実なところはソーそっくりか」
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