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星条旗のショアライン

第18章 ケヴィン・ベックマン(GB2016/MCUクロス)



前編

ケーキハウスで会計を待っていると、俺の隣でショーケースの中を覗き込んでケーキを物色する男がいた。知り合いに似ていたので「やあ」と声を掛けると彼もまた折り曲げていた腰を伸ばしながら俺を振り返り、次の瞬間にはとろけんばかりの笑顔を咲かせて「やぁ」と言った。笑顔で返事をしたのなら彼は知り合いで間違いないだろうと結論を急いだ俺は、当初買う筈ではなかったミルクレープをもう一つ注文した。

(1)

律儀に店の外で待っていた彼は会計を済ませて近寄る俺を大手を広げて歓迎してくれた。隣立った瞬間に後頭部から首にかけてを大きな掌で撫ぜ、刈りだしたばかりの項を擽る。『彼』はスキンシップが過剰な方だが人前でこんなことをする奴ではなかった気がしたけれど「そんな日もあるかもな」と頑なに意思を曲げなかった。結果的にそれが大きな間違いである事には後程気付くのである。
「君がケーキ屋に来るなんて珍しいな」
「お腹が空いたんだ」
「そうか。何を買うんだ?」
「お金を持ってないから買わないよ」
「……それなのに中まで入ってきたのか」
「美味しそうだったから」
「……そ、そうだな。あ、ミルクレープ食べるか?」
「うん」
『彼』はこんなちぐはぐな会話をする奴だったっけと、そこで漸く違和感を覚える。でも顔はどこからどう見ても『彼』なのだ。青い瞳に高い鼻、少し薄い唇。それらが一斉に動いて形作られる極上の笑顔も『彼』そっくりで……――”そっくり”という言葉を使ったからには言い逃れ出来そうもない。俺の覚えた違和感はとっくに実を結んでいた。

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