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星条旗のショアライン

第2章 スティーブ・ロジャース(MCU/As後)



(4)

「レインは本当に物腰の柔らかい話し方をするのね」
ナターシャが他意なく無邪気に囁いてくるまで、正直いって或る日の情緒不安定な一日をすっかり忘れていた。俺の話し方や言葉選びは全てフィル・コールソンのトレースだ。昔はもっと甘えるような情けない話し方だったと思う。スティーブに依存し掛かってヴィランに堕ちるまでの自分と今の自分は全く別の人間といって差し支えなく、フィルによって紳士然とした大人の振る舞いを得たといっても過言ではないくらいだ。
しかしまさかそんな説明をするわけにもいかず、詳細を知りたがるナターシャをそれとなく窘めてその場は切り抜けたが、一番の強敵はまたその翌日に現れたのだ。
「レイン」
「ん? ああ、スティーブか」
世間は狭い。初めて訪れたオープンテラスのカフェで偶然にもスティーブと席を隣にした。ベネチアの海を思わせる明るいシャツの上に馴染みのあるブラウンカラーの革ジャケットを羽織っている姿は相変わらず格好良い。湯気が立ち昇るテイクアウト用のカップを片手に近付いてきて「一緒に良いかな」とはにかまれたら誰だって承諾するに決まってる。他の客を相手にしていた筈の店員が喜色に満ちた黄色い声を上げたので、俺の推測は確かなものになった。
「っておい。隣に座る必要あるのか。向かいに座ればいい」
「オープンテラスなんだ、同じベンチだって構わないんだよ」
「ん……そういうものなのか」
「そういうものだ」
余談だが決して『そういうもの』ではなかった事は後に同じシチュエーションでクリントの横に座ってしまい、頭を小突かれた事で発覚したけれど、今の俺は『知り合いが相伴を求めてきた時のカフェにおける定義』且つ『パーソナルスペースの管理』且つ『好奇の目の有無』を理解していなかったし、スティーブの整った相貌が俺に向かって蕩けるように甘く華やいでいるお陰で逆上せていたのだった。

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