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星条旗のショアライン

第2章 スティーブ・ロジャース(MCU/As後)



(……でも)
でもフィルの幻影を見てしまう程に思い詰めているのかと思うと、今は街に出ることが怖いとさえ感じてしまう。彼が亡くなってから幾許の月日が経ったと思っているのだ。緩み切った脳みそはまだ誰かの教えを乞うているとでもいうのだろうか。

(3)

『フリーマン様』
「ジャーヴィス」
盛り上げを見せる部屋の中央から逸れて、ライトの明かりも満足に届かないような隅に設置されているソファへ身を乱暴に落ち着かせると、俺にしか聴こえない声量でトニーの人工知能が話しかけてきた。名を呼んで応えると平坦な声が鼓膜を甘く攫っていく。
『お疲れのご様子ですね』
「そうかな」
『自律神経が乱れ、血圧が上昇しています』
「……そうか」
『心身に負荷がかかっている状態です。もう休まれた方がフリーマン様の為では』
「ジャーヴィスの前では俺も丸裸だなぁ」
背もたれに体重を預けながらJ.A.R.V.I.S.と会話していると微睡んでくる。柔らかくて抑揚のない、甘くて優しい声音が安心するのかもしれない。そんな風にして気が緩むと欠伸が出る。欠伸が出て涙が滲む。じんわりと瞳が潤んでいって次から次へと雫が零れる。次から次へと。
『フリーマン様』
「お願いジャーヴィス……皆には内緒にして」
『かしこまりました』
ソファの上に脚を引き上げて膝を抱えれば、頂きに目元を強く押し付ける。タイトなジーンズが濡れていくのを感じながら冷えていく身体とは裏腹に首から上は燃えるように熱い。止めどない涙を押し返すだけの気力が無くて咽びそうになる声を噛み殺しながら肩を震わせた。

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