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星条旗のショアライン

第17章 ジョニー・ストーム(F4/MCUクロス)



恥じらいから火照る頬と口元を気にしながら生理的に濡れた眦に瞳を寄せて右隣を睨むと、俺に悪戯を仕掛けた男は我関せずとばかりに前を向いて澄ましている。下手くそな口笛が聞いたことも無いビートを刻む事への腹立たしさときたら。
(なぜわざわざ起こしたんだ、しかも赤の他人を!)
彼に度が過ぎた事をしでかしたという自覚は無さそうだ。俺の殺気を受け止めてなお口角を愉快そうに歪めた。触れ合う太腿から伝わる熱が、どこかこの状況を愉しんでいるような子供体温で無性に苛々する。その眼鏡、握り潰してやりたい。
(っ……まてまて落ち着け)
深呼吸をする。ここはもう少し冷静になろう。最近短気になっているんじゃないのか、俺。このまま怒りを募らせれば明日の朝刊の見出しはこうだ、『アベンジャーズのレイン・フリーマン、電車内で民間人を暴行』。こんなくだらない事でS.H.I.E.L.D.や仲間の顔に泥は塗れない。
(先ずはこいつから離れよう)
満員であっても移動手段はある。席を譲ってから人混みに紛れればいい。誰だって人波に揉まれるより席に座って落ち着きたい筈だ、譲られて断る人間は早々いない。ちょうど俺の前に杖をついたサングラスが似合う白髪のおじいさんが立った。
「Sir。どうぞ、お座り下さい」
「やあ、ありがとう! 君に幸あれ!」
「あ、え、はい」
下心あって譲ったのに予想よりも遥かに喜んでもらえて思わず面食らう。運気的にはどん底なのだが、とも紳士に言えなかったので曖昧に微笑みを噛みながら立場を入れ替える。少し手を貸して彼が腰を落ち着けたのを見届けるとすぐさま移動を開始した。黒波を掻き分けて開閉ドアの前を目指す。
(よし)
なんとか辿り着いた。UVカットが施されたドアの硝子に指の痕を残しながら細い溜め息をついて一段落。このまま流れる景色を眺めるのも悪くないが、とにかく今は身体を落ち着けたい。身体を反転させてドアに背をべったりくっつけるように寄り掛かると、肩の力を抜いて少しの間だけ瞑想した。

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