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星条旗のショアライン

第17章 ジョニー・ストーム(F4/MCUクロス)



(3)

(……なんだ)
怒りも収まって体内を渦巻く昂りの熱が背中から外部へ放たれた途端、頭の中が霧掛かったような既視感に襲われて釈然としない。何か見覚えがある。この現状に見覚えが。首を捻りながらゆっくりと小さな箱の中を見回す。これといって車両内に変わった様子は見受けられないが、未だもやもやした気分は晴れない。
しかもこの一種の『予感』はきっと良くない方向へと傾く筈だ。非論理的な事を言うつもりはないが、俺の直感――とりわけ『悪い予感』は高確率で的中する。それは電車がふいに大きく揺れた時、たたらを踏んでしまった俺の腰を掴んで支えた者が実証した。
「っ……!」
――さっきの男だ。先に言うが、最悪の目覚めを施した方じゃない。安眠を与えてくれた方だ。彼はここまで一緒に移動してきたらしい。俺が訝しんで身動きを取る前にすかさず腰を掴み直してきたかと思えば、電車の揺れに合わせた自然な動きで巨躯を前進させ、俺を挟むようにドアへ寄り切った。
(コ、コイツッ……!)
そして密着した瞬間に気付いてしまった。気付かされてしまった。男のアレが熱を持った状態で俺のへその下に押し付けられているという事に。理由は分からないが、マウントを取る相手を間違えたとしか思えない。ティーンの頃のような軟弱体型だったならまだしも、それなりに筋肉をつけた俺を襲おうなどとは愚かだ。スーパーソルジャーを痴漢しようとする度胸だけは褒めてやりたい。
大蛇のような太い腕に所狭しと入れられた刺青紋様を辿って睨み上げると造詣が深い顔が勿体ないくらい脂下がっていた。強いウェーブの掛かった長い髪を垂らして歯を見せる姿は、彼に好意を寄せている人間であるならワイルドな色気を感じて眩むかもしれないが、あいにく我々は完璧なまでに初対面だ。極めて不快なだけ。
これから身に降りかかる悲劇を予測できない男が密着した腰を細かく揺すり、熱く乱した呼気を額に落としてきたのを合図にブツンと堪忍袋の緒が切れる音を聞いてしまったらもう止まれそうにない。嗚呼……やはり明日の朝刊をトップで飾ってしまうかもな、『アベンジャーズのレイン・フリーマン、電車内で痴漢を撃退』。せいぜい二週間くらいの怪我で済ませてやる。ご自慢の息子は再起不能になるけどな。

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