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星条旗のショアライン

第17章 ジョニー・ストーム(F4/MCUクロス)



前編

遮るものが何も無い青空にあって伸び伸びと輝き続ける太陽は、空気を程よく暖めて気候を麗らかにする。そんな昼下がりに規則正しくリズムを刻む電車に乗るのは不味かったかもしれない。立て続けに起こった任務上のトラブルは俺から着実に睡眠時間を奪っていたようで、今にも心地良さに屈服して眠ってしまいそうだった。
満員電車で運良く座席を得てしまったのも結果として良くなかった。左右を固められているとはいえ、リラックスを促す姿勢で居れば勝手に瞼が重くなる。意識はとろんと遠くなり、老若男女で埋め尽くされた箱の中の景色を目で認識する端から記憶が細切れにされていく。スーパーソルジャーとて睡眠は大切なのだと実感すると共につくづく思い知らされた。
(ん、だめだ、ねむってしまう)
とっくに俺の脳みそは限界を迎えていたのだ。流石に今度からは三徹を控えようと決意する。これ以上、仕事を理由に睡眠時間を削れば事実が明るみに出た時に『自己管理がなってない』とスティーブから叱責されるだろうし、徹夜に着いていけないような体力の衰えを見せたらトニーに『これだからじいさんは』と皮肉めいた小事を言われかねない。事実は生まれる前に摘み取る……これが一番だ。
さて、両隣にはそれなりに体格の良い男が座っている。左にはいかにもラガーマンといった体躯で、健康的な褐色の肌を持つ刺青だらけの髭面男が。右には濃紺色のキャップと黒縁眼鏡を身に付けて、陽気そうに音楽を聴きながら身を揺らす若い男が。すまない、君達どちらかの腕に今から眠ったじいさんの頭が凭れ掛かるかもしれないが、旅の恥はかき捨てと思って耐えてくれ、頼む。

(2)

「なぁ、あんた」
「……」
「おいって」
「……ん」
「そんなにエッロい顔してると喰われちまうぜ」
「……ッ!?」
浅瀬の微睡みで身を焦がしていると、右耳の隧道に熱い吐息を吹き込まれて身体がびくりと戦慄いた。不吉な単語を聞き拾って慌てて周囲を伺うと、寧ろ跳ね起きた俺を不審がった乗客達に冷ややかな視線を浴びせられる。左に座る刺青男だけは長い髪の毛を無造作に掻き上げながら「どうした」と心配してくれたけれど、今は逆にその優しさが惨めな気持ちにさせた。というか結局、俺は君の腕に頭を凭れ掛けたんだな……すまない。いい歳をした男が公共の場で寝汚いなんてもう本当に救いがなかった。涎とか垂れていないよな……。

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