第14章 【2019年版】Xmas①(MCU/鉄and盾)
「……だが、恐らくじいさんはデザートの意味を勘違いしてるぞ。最初から奴の好物なんかひとつしかない」
『デザート』の時にエアクオートを作る。頬の内側を鳴らしてウインクひとつ、どうせ下世話な妄想を思い描いているに違いない。先達て、俺が削除の仕方も解らないところへ付け込むようにして無理やりスマホへダウンロードしてきたポータブル・ドキュメント・ファイルの中に似たような顛末の二次創作があったことを思い出した。そこでの仮想・俺は夕食のデザートとしてスティーブに抱かれる。トニーはそれを指して揶揄っているのだろう。
「いい加減に創作物と現実の区別をつけてくれ。君は世界一の頭脳を持つエンジニアなんだぞ。弄ばれるな」
「それは悪かったな。と言っても二次創作を妄想だと決め付けて掛かるのは早計だ。火のないところに煙は立たないというだろ」
「っ、あのなぁ……」
「さぁて取引再開だぞ、クライアントくん!」
リアクターが光る胸の前で打ち手を鳴らして強制的に話を断ち切ったトニーは、文句を舌の上で転がす俺の腰を抱えて再びキッチンへと戻る。促されるまま足の長い椅子に臀を乗せても少しも休まらない。今のやり取りを経て、氷漬けのお陰で停止していた老化が一気に進んだような心地だ。
対面式のカウンターへ項垂れる俺の目の前にソーサーが置かれる。たちまち辺りにコーヒーが挽かれる芳ばしい香りが漂い始めて、そこにきてようやく気分が落ち着いてきたのだった。
「タワーの使用については許可しよう。ケーキを一欠片食べるようなものだ。金もいらないから好きに使うといい」
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