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星条旗のショアライン

第14章 【2019年版】Xmas①(MCU/鉄and盾)



「――……家を暖めておいてくれないか。すぐ戻る」
「!」
「それと、夕食のデザートは君の好物を考えておいてくれ」
「レイン、それはつまり……」
「また後で」
「……ああ!」
――と、感嘆符たっぷりの言葉に添えられた笑顔が眩しい。噫、本当に。あまりの後ろめたさから目を背けたい衝動をなんとか抑え込み、ハグを求める仕草をしたスティーブへ同じ所作を返せば力一杯抱き着かれる。彼の身体に隠れた尻の辺りから千切れんばかりに振られる尻尾が見えた気がした。
結局は突き放しきれない俺に安心感でも抱いてしまったのだろうか、至近距離で見上げると瞳の奥に普段通りの強い意思を宿らせ、甘いマスクを優しくとろけさせている。ぽんぽんと俺の頭を撫でて直ぐに背を向けたかと思うと、太ましい脚を漕いで意気揚々と歩き出して行った。彼はF.R.I.D.A.Y.の指示に従ってファクトリーの玄関ホールへと進んで行く。やがて外へと向かうだろう。
「……はぁ」
何度目かになる重々しい溜め息が唇を濡らして温かい空気に溶け入る。憔悴する俺と靴先を並べるまで近付いてきたトニーは、スティーブが去った事で開け放たれたままの扉を一緒になって見つめていた。一瞥すると至極だらしがない表情だ。こういう時に彼が何を考えて何を言おうとしているのか、長いこと共に生きていると分かるようになるものだな。
「その甘さでよくヴィランをやっていられたな」
「余計なお世話だ」
「しかし、的確に飴と鞭を使い分けるとは見直したよ。やるじゃないか、調教師くん」
「……」
やはり軽口だ。分かっていても気が滅入る。「これでも褒めてるんだけどな」と脂下がったような表情で囁かれても信用出来ない。頼むから借用の件を進めないかと切実に求めて懇願するが、興に乗ってしまったトニーは止まらなかった。スターク・インダストリーズで辣腕を振るう有能な社員でさえも恐らくは彼の飄々とした口振りで展開されていく言葉の羅列を制御しきれやしないというのに、聞いているだけで疲れ果てる俺がどうにか出来るわけが無い。

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