第14章 【2019年版】Xmas①(MCU/鉄and盾)
ドリップポットを傾けてカップに甘茶色の水面を注ぎながらイディオムを交えた呟きを落とすトニーが湯気に隠れていく。とぷとぷと規則正しい音を聞いていると驚くほど心音も整って穏やかになる。
(……)
そういえばトニーはシャワーも浴びずに相手をしてくれていたんだったなと思い出して、長居をしてしまった挙句に一悶着も二悶着も起こした事を今更になって恥じたし、申し訳なくなってきた。なんだかんだと仲間に甘いのは一体どちらの方なのだか。
「砂糖とミルクは少量ずつだったかな」
「ああ。ありがとう」
軽口をやめた真面目なトニーほど紳士的で格好良いと思う時はない。コーヒーの好みを覚えていてくれたり、さり気なくカップの持ち手を利き手側に回してくれたり、おかわりの有無を口添えしてくれたり。細かな気配りと共に優しい眼差しで見詰められると腹の奥がじりじりと痺れてきて落ち着かなくなる。誤魔化すようにコーヒーへ手を伸ばして吐息と唇を寄せれば、噎せ返るような湯気が熱くなった顔をトニーから遮るように広がった。
「料金は本当に要らないのか」と啜りながら問うと「ああ。要らない」とすぐさま返って来る。「その代わりに条件がひとつある」とも。なにが望みなのか再び問い掛ける。スティーブの危惧した通りの無謀な条件だった場合は辞退を申し立てるつもりだったが、トニーがカップを片手に蠱惑的な笑みを噛む中で耳に吹き込み入れてきた『条件』は一概に無謀だとも言いきれず、俺を大いに悩ませる事となった。
→トニールート
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⚠︎未分岐