第1章 出逢い
「……流れる様にしちゃったけど、既成事実と云う事で良いのかな? 泉さん」
「うう……」
情事後、私はうつ伏せになって枕に顔を埋める泉さんにそう尋ねた。羞恥からか自己嫌悪からかは分からないが、終わってからずっとこの体勢のままである。
「ねぇ泉さん? そろそろ私は顔が見たいのだけど」
「嫌です……顔見られたくない」
私はふかふかの布団に肘をつきながら軽く溜息を吐いた。
「随分と順番が逆になってしまったけど、私と付き合う気、無いかい?」
「……善かったんですか?」
彼女は枕に顔を埋めたまま呟いた。
「善かったって、何が?」
「だって、わたし処女じゃ無いですよ」
「知ってるけど? 其れが如何かしたのかい?」
あっさりそう答えると、彼女が顔を上げて「うぇ、え?」と変な声を出した。
「だ、だって……。他の男に抱かれてた身体って普通厭な物なんじゃ……」
「別に? 抱かれてたからって特に何も変わらないだろう?」
うぇ、あぅ、と変な声を上げ続ける彼女を見て、私はククッと喉を鳴らした。
「私は美女が好きなんだ。顔も勿論だけれども、心が美しいと尚善い。君は私のお眼鏡にかなったのさ」
そして其の美しさに処女か如何かは関係無い。にっこり笑ってそう云うと、彼女はぽかんと口を開けた。
「……男の人は婚前交渉を嫌う物だと思ってました」
「うん」
「自分の身体も、汚い物とばかり思っていました」
「うん」
「……本当に、私なんかで善いんですか」
「厭だったら心中にも誘わないし、ましてや付き合おうなんて云わないよ」
ぼすんと彼女は顔を再び枕に押し付けた。そしてくぐもった声で一言。
「……不束者ですが、宜しく御願いします……」
耳まで真っ赤になるその仕草が愛しくて、私は笑みを深くしながら「喜んで」と彼女の髪に口付けをひとつ落とした。