第10章 黒山羊さんからのお手紙
ミシッと扉が歪む音で目が覚めた。
「ん……?」
「よう。善く眠れたか、泉?」
「え……中也さん……?」
嗚呼そうか、わたしはポートマフィアに入っているのだった。ごしごしと寝ぼけ眼を擦り、わたしはベッドを出た。
「ぐっすり寝れたみたいだな。ほら、さっさと支度しろ。髪の毛酷ェぞ」
「えっ、本当だ!」
「俺は部屋の外で待ってる。着替えたら首領の所に挨拶に行くぞ」
慌てて枕元に置いてあった服に着替えた。淡い緑の着物に黒い柔らかい生地の袴だった。赤い紐も置いてあったので、それで髪の上半分を結わえてハーフアップにしてから部屋を出た。
「ん、似合うじゃねェか」
「中也さんが見立てたんですか?」
「俺も見立てはしたがな。和服は姐さんの趣味だ」
姐さんて誰だろう。わたしは疑問に思いながら首領の居る部屋へ続く廊下を歩いた。
「そういえば思ってたんですけど」
道中無言なのが何だか寂しくて、つい口を開いた。「何だ」と中也さんも反応を返してくれた。
「中也さんってわたしと身長変わらないですよね……?」
「あァ? 何か言ったかコラ」
「うひゃー怖い」
「笑ってんじゃねェよ、ったく……」
不機嫌そうな中也さんを見て一頻り笑った後、わたしは中也さんの顔をひょいと覗き込んだ。
「でも、身長差ないって善い事もありますよね」
「無い」
「ありますよ。目線がしっかりあってお話出来ますもん」
どちらかが背が高いと見上げたり見下ろしたりしなければならなくなる。その点、同じくらいなら目線をバッチリ合わせて話せるのだ。
「凄く近づいた感じがして嬉しいですよ、わたしは」
「…………」
中也さんは何も云わずずんずんと前に進んで行った。「あ、一寸!」慌てて追いかけると、中也さんはとある扉の前で立ち止まっていた。
「ここだ」
コホン、と小さく咳払いを一つして、中也さんは扉を軽くノックした。
「首領、中原です。入ります」
「……嗚呼、入り給え」