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徒然なるままに【文豪ストレイドッグス】

第6章 傀儡師


「……御免、泉……。御免……!」

 お兄ちゃんがぼろぼろと大粒の涙を流した。昏かった瞳には光が差している。

「お兄ちゃん……?」
「僕は……お前の異能を知ってた……。だからこそ、此の男は危険だと思ったんだ……」

 お兄ちゃんは、あの頃わたし達兄妹の里親として立候補して来た此の仮面男を子供ながらに調べたらしかった。そして男が『操り人形』の異能を持っている事を知った。

「離さなきゃ、と本能的に思ったんだ。此の儘二人で里子になれば、泉を利用されるのは目に見えてる。だから僕だけが里子として行ったんだ」

 其れしか泉を守る方法が思いつかなかった。お兄ちゃんは嗚咽交じりにそう言った。

「でも、結局泉は院で虐待されて……。此の男から其れを聞いた時、凄く後悔した。傍に居てやれば守れたのにって」

 お兄ちゃんの後悔と自責の念を、此の男は卑怯にも利用したのだ。

『お前の力だけでは妹を守り切れなかっただろう? あの娘を守るには私の力が必要なんだよ。
──妹を守りたいと本当に思っているのなら、私に協力しないか?』

 其の言葉に乗せられ、お兄ちゃんは男の言うがままに動き出した。だが、時折我に返ることもあった。如何してこんな事をしているのだ、妹を守る為にはならないだろう、と。その度に男は『妹の為に私に協力するのだろう?』と呪文のように耳元で唱え続けたと言う。

「でも、もう騙されない。泉が目を覚まさせてくれたんだ。お前の企みには乗らない。もう二度と見誤る事はしない、絶対に!」

 お前なんかに泉を渡してやるもんか。お兄ちゃんは仮面男にそう啖呵を切った。

「部下に裏切られて残念ね、里親さん?」
「其の程度の男、部下などとは思っておらん。だが、八年も一緒に居れば情も移る。お前に最後の情けをかけてやろうじゃないか」

 仮面男はチャカ、と拳銃を構えた。銃口は完全にわたしを狙っている。

「其の内、お前の妹は出血多量で死ぬだろうな。そんな苦しい死に方をする前に、兄妹揃って殺してやろうじゃないか」
「止めろォ!!!」

 パン、と乾いた音がした。わたしの目の前には血飛沫とぶちまけられた脳味噌が見えた。

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