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徒然なるままに【文豪ストレイドッグス】

第3章 夜道にはお気をつけて


 其の人と出会ったのは、探偵社を出た後に買い物を済ませ、家までの道のりをゆっくりと歩いていた時だった。
 暗い夜道に溶け込む様な黒い外套を羽織った少年がぬっと出て来た。彼の目はギラリと妖しく光り、わたしへの憎悪が溢れている。

「……何ですか?」

 少なくとも好意的な人では無いだろう。憎まれているのならわたしも愛想を振り撒く必要は無い。そう思ってわたしもジロリと睨み付けた。

「……貴様か。太宰さんの邪魔をするのは」
「お言葉ですけど。わたしと貴方、会った事、無いですよね? 初対面の人に貴様呼ばわりは善く無いと思うけれど?」

 貴方、誰。毅然とした態度でそう問えば、黒い少年はゆっくりと名乗った。

「僕は芥川龍之介。ポートマフィアの犬だ」
「……ポート、マフィア」

 その単語には覚えがあった。煮え滾りそうな気持ちをぐっと抑え、あくまでも冷静に尋ねる。

「で? そのマフィアさんが何の御用?」
「……太宰さんは僕にとって大事な存在。その意思を崩すのであれば……容赦はしない!」

 善く判らない理屈である。要するにわたしが太宰さんを誑かしたと云いたいのだろう。本当は逆なのだが。

「異能『羅生門』!」
「きゃあ!?」

 彼の羽織っていた黒い外套が獣のような形になり、わたし目がけて飛び付いた。咄嗟に避けるが、直ぐに追いつかれてしまう。あんな獣に噛み付かれたら一瞬であの世行きだろう。

「危ないじゃない! 攻撃する時はするってちゃんと云わなきゃ駄目でしょ!」
「巫山戯るのも大概にしろ……っ」

 少年が少し顔を顰めた。声に詰まっていたから、喉か肺がおかしいのだろうか。だがそんな事を気にしている暇はない。わたしは黒い獣を避けて行った。時折掠っては服が破けたり軽い切り傷になったりもしたが。

「ちょこまかと……!」

 決定打が出せない少年は苛立ったらしい。ギリ、と少年の歯噛みが聞こえた気がした。
 本能的に察する。……やばい、死ぬ。

「異能『羅生門・獄門顎』!」

 少年が叫ぶ。わたしは反射的にギュッと目をつぶった。だが、何時まで経っても何も起きる気配は無い。そっと目を開けると、少年は驚いた様に顔を強ばらせていた。わたしの目の前には見慣れた砂色の外套が翻る。

「全く、芥川は野蛮だねぇ」

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