第2章 昼下がりの邂逅
時刻はもう夕方。一人暮らしであるわたしはそろそろ買い物に行かないといけない時間だ。
「じゃあわたしは此れで。又ね、鏡花ちゃん」
「ばいばい、お姉さん……」
「またおいでねー。今度は駄菓子持って来て」
「え〜……。じゃあ乱歩さんの解決した事件の話と交換ですよ」
笑い乍ら話していると、今度は賢治くんと谷崎兄妹がわたしの手を握った。
「また来て下さいね! 僕待ってますから!」
「有難う賢治くん! 又ね〜」
「また来た時は僕ともお話しましょうね……ってわぁ!? ナオミ、いきなり来るなよ吃驚するだろ!」
「お兄様ばかり狡いですわ! ……泉さん、またお会いしましょう!」
「あはは、お二人共又今度! 与謝野さん、敦くんもまた!」
少し離れた所に居た二人にそう声をかけると、二人はふっと笑ってくれた。
「嗚呼、何時でもおいで」
「楽しみにしてます!」
「有難う、じゃあね!」
全員と挨拶をし終え、最後に手を振ってから扉に手をかける。開ける前に襟首を軽く引っ掴まれた。
「ぐぇ?」
怪訝に後ろを振り返ると、国木田さんが険しい表情でわたしの襟を掴んでいた。
「小娘」
「何ですか……。苦しいです」
「む」
わたしがそう云うと、国木田さんは直ぐに手をぱっと離してくれた。そしてまた険しい表情に戻って云う。
「これからもあの馬鹿は迷惑を掛けるかもしれん。だが、彼奴の事、宜しく頼むぞ」
小さな声で、わたしにだけ聞こえるように囁かれたそれは、酷く優しい声色で。あぁ、太宰さん好かれてるなぁ。何てわたしは頬を緩めた。
「勿論ですよ」
「済まないな。何かあったら直ぐ云って来い」
「有難う御座います」
にこ、と微笑む。太宰さんが此方をじっと見ているのにも気付かずに。