第16章 帰還
「嗚呼そうだ」中也さんは思い出したように紙袋を渡した。
「何ですかこれ」
袋の中には継ぎ接ぎだらけの鬼魅悪い人形が。「Qの人形だよ」中也さんが一言付け加えた。
「それを少しでも壊せば呪いが発動する」
「へぇ……。何でわたしに?」
まさかプレゼント? と冗談で云ってみると、「莫迦」と頭を小突かれた。
「太宰に渡しとけ。彼奴が持ってれば絶対に呪いは発動しねェ」
不服そうにそう云う中也さんに、わたしはふふっと笑った。
「判りました。渡しておきますね」
「本当はこの為に手前を呼んだンだがな」
思わず苦笑い。わたしは少し怪訝に思いながら尋ねた。
「でも善く渡そうと思いましたね?」
マフィアとしても、Qの異能が発動するというのは脅威ではあるが切り札でもある。切れば一発逆転を狙える鬼札だ。
其れを如何したことか、敵である探偵社、しかも中也さんが個人的に嫌っている太宰さんに預けるとは。首領も許可は出し渋るだろうに。
「太宰が持っていれば異能は発動しねェし、俺達だけじゃQは手に余る。首領の判断だ」
「成程……。其れが最適解、か」
わたしは紙袋の中の人形をじっと見た。見れば見る程鬼魅悪い人形である。
「……まァそう云う事だ」
云いつつ中也さんは蒸留酒をぐいっと飲み干した。ガタンと席を立ち、二人分の代金を机に置いて行く。
「その人形、あの青鯖に投げ付けといてくれ」
「投げつけた所で呪いは出ませんけどね」
「俺の気が少しは晴れる」
「はは……」