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徒然なるままに【文豪ストレイドッグス】

第16章 帰還


 わたし達のパラシュートはとある埠頭に着陸した。龍にしては珍しく、わたしを気遣うように優しく地面に下ろした。

「く、動けない」
「木の根だからな。このまま放っておけば此処に根付くぞ」
「えぇ〜……。わたし未だ人間で居たいのに」
「僕に言うな」

 龍が面倒臭そうにわたしから視線を外した。敦くんは堕ちた白鯨をじっと見つめていた。

「……後悔してる?」

 敦くんに視線だけ向けて問う。彼は白鯨を真っ直ぐ見つめたまま答えた。

「街を救えた事は後悔しません。でも……鏡花ちゃんも守りたかったです」
「莫迦な娘だ……」

 龍が敦くんの隣に立ち、白鯨を見つめた。

「闇の中に居ればこんなに早く散る事も無かった」
「でも光に居た事で彼女は何かを掴んだ……でしょ?」

 そう云うと、龍はフンと鼻を鳴らした。わたしはその反応を見て思わずくすくすと笑ってしまった。「何を笑っている貴様」ギロリと睨まれたが、笑いは止まらない。わたしは一つ息を吐いた。

「大丈夫、皆無事だから。ね、太宰さん?」
「バレてたか」
「太宰さん!?」「な、何故此処に」

 敦くんと龍がそれぞれ目を丸くさせた。太宰さんの後ろには社長の姿。

「社長まで!? 如何して……」
「入社試験だ」
「にゅ、入社試験?」

 敦くんが怪訝な顔をする。すると社長の後ろからひょっこり鏡花ちゃんが顔を出した。
 まぁ大方そうじゃないかと踏んではいたけれど。わたしはそう思いつつ溜息を吐いた。

「鏡花ちゃんの入社試験でしょう? 彼女が命を賭して横浜を守れるか如何か、の」
「やはり泉にはバレていたねェ」
「鏡花ちゃんが社員だって話は聞いた事が無かったので。そうかなって思って」

 鏡花ちゃんはにこりと笑った。それは今までで一番自由な笑みだった。

「……ただいま」

 敦くんが彼女に駆け寄り、抱き着く。「おかえり……!」敦くんの声は泣いていた。それに釣られたのか、鏡花ちゃんも少しだけ涙を零した。

「で、泉?」
「何ですか」
「君のその怪我と足は何だい?」
「敦くんを手当てした跡です。足は何時の間にかなってました」

 そう云うと、太宰さんは大きく溜息を吐き、わたしを背中におぶった。

「私が触れている間は足も戻るし、怪我は与謝野先生に治してもらえる。戻るよ」

 わたしはただ頷くしか出来なかった。

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