第15章 生命を司る樹
三人が戦闘になりその場から消え去ると、わたしはもぞもぞと手首を動かした。
右袖からナイフを取り出し、逆手に持って縄を少しずつ切り始める。総ての拘束が外れたのは二、三分程後だったろうか。
「……よし」
縛られた所為で痛みは有るものの、何とか動けはする。足は木の色になってしまっているが、辛うじての感覚はあった。ゆっくり立ち上がり、わたしは慎重に辺りを見回した。
操縦室に行ってみよう。止める方法はスイッチだけでは無い筈だ。そう考えた時、物凄い轟音と揺れが白鯨を襲った。
だが其れ等は直ぐに治まった。わたしは驚きと戸惑いを混ぜこぜにしながら、壁を伝って操縦室を目指した。
***
操縦室に入り、どうにか高度を保つ方法を考える。機体はどんどん下がっている。わたしは急いでコードを打ち込み、白鯨の操縦を試みた。
だが下降しているという状況は全く変わらず、わたしは更に操作を加えた。瞬間、白鯨がガツンと揺れた。
揺れてから間もなく、敦くんと龍、そして最初に会ったお爺さん……ハーマンさんが操縦室に入って来た。
「泉さん、何で此処に!?」
「白鯨を操縦出来ないかと思ってね」
無駄だったけど、と肩を竦めると、敦くんは「そんな!」と希望が潰えたような表情になった。
「君達は何で此処に?」
「此方もスイッチが効かなくなって……。でも操縦出来ないって、如何して」
「外部から何者かがクラッキングしておるんじゃ。こうなったら此方から操作するのは不可能じゃよ」
ハーマンさんが静かに云った。クラッキングなんて、誰がそんな事。だが、このままだと横浜に落ちるのは避けられない。如何するべきか考えた末、一つの案を閃いた。
「……わたしが乗ってきたヘリぶつけようか。爆弾積んであるし、威力は高い筈」
「でも其れをしたら泉さんが……」
『その必要は無いよ』
白鯨に付属している無線から声が聞こえた。声の主は太宰さんだ。
「だ、太宰さん!?」
わたし達三人の声が綺麗に揃う。太宰さんは冷静な声音──避けられない事態を話す時の声で云った。
『今軍警の無人機が其方に向かっている。体当たりするそうだよ、横浜を守る為に』
「軍警……? 真逆、太宰さん」
わたしの表情が変わったのが判ったのだろう、敦くんと龍もはっと気づいたようだった。