第15章 生命を司る樹
一瞬だけフィッツジェラルドの手が緩んだ。その隙を逃さずに掴んでいる手をこじ開けて床に転がる。顔から落ちた所為でサングラスの左目側がパリンと割れた。
「中々やるな……」
彼が感心している隙に敦くんが殴り掛かる。だが、それを予測していたかのようにフィッツジェラルドは彼を殴り飛ばした。
「がっ!」
「遅い……。何だその拳は」
龍が羅生門で襲い掛かっても其れを拳で止める。あの羅生門を素手で受け止めるなんて化け物だ。
二人を吹き飛ばしたフィッツジェラルドはわたしの方へ歩み寄った。げほ、と一つ咳をしながらわたしは後ずさる。だが直ぐに壁に当たり、わたしは彼に追い詰められた。
フィッツジェラルドは座り込むわたしに合わせるかのようにしゃがみ込み、静かに云った。
「君の存在は世界を狂わせる。君は彼等を守ろうとしている様だが……無駄だよ」
「そんなの、やってみなきゃ判らない……」
「判るさ。君はこの世界を壊しかねない危険な歯車なんだ」
「何を……」
フィッツジェラルドの横面に敦くんが殴り掛かろうとする。其れも読んでいたのか、彼は右手一つで敦くんの虎化した拳を受け止めた。
「泉さんから……離れろ……っ!」
「今は俺が彼女と話をしているんだ。邪魔をするな、タイガービートル」
ぶんっと右手を振るい、敦くんを吹き飛ばす。強い、強すぎる。わたしはまたぞくりと震えた。
「君は一度この街を離れたそうだな? そして、以前とは違う形で戻って来た……」
異能が変わり、闇に染まった。その時から世界の歯車は少しずつ狂ったのだ。そう彼は言った。
「君さえこの街に居なければ、彼らに危険は及ばない……」
「何で、貴方にそんな事」
「君の異能の所為さ」
フィッツジェラルドはニタリと嗤った。敦くんも龍も、彼の言葉をじっと聞いていた。
「君の異能は『マザー』から授かった物だ」