第15章 生命を司る樹
「其のコンテナに入っているのは爆弾だろう?」
「……よく判りますね」
「儂は長く機械と共に居た……。火薬の匂いも嗅ぎ分けられるようになってしまったよ」
老人はふっと瞳を伏せ、悲しい顔をした。
「儂はこれから、この白鯨と共に沈む……」
「……如何して」
「フィッツジェラルドには悪いが、儂も歳じゃ。もう充分人生を楽しんだ……。最期くらい、機械の体になった白鯨と共に沈みたいのじゃ」
老人は静かにそう言った。わたしは拳銃をしまい込み、老人を真っ直ぐ見据えた。
「……あのね、ハーマンさん。わたし、この戦いで誰も死なせたくないって思ってるの。仲間も組合も、皆」
甘いと自分でも思う。自分の命一つ賭けて皆を助けたいだなんて甘い考え、きっと太宰さんが知ったら笑う。
でも、わたしはもう一人として死なせたくない。見殺しにもしたくない。だからこそ。
「……生きて。生きて此処から出ようよ」
だが、老人はふるふると首を横に振った。
「君は優しい。だが、優しいが故に失う物もある……。君はよく判っている筈じゃ」
「……っ、ハーマンさん、わたしは」
「老いぼれの最期の我儘じゃ、聞いてくれるかの。……さぁ、仲間がやられる前に行きなさい」
嗚呼、此の人には何を言ってももう届かないのかもしれない。ならばせめて、せめて最後に足掻いてみても善いだろうか。
「……わたし達が勝ったら、貴方も連れて脱出する。だから、其れ迄は生きていて」
「……覚えておこう。さぁ、行きなさい」
老人の言葉に、わたしは無言で頭を下げた。何処からか暴れている音が聞こえる。わたしはくるりと老人に背を向けて、音の方へ走り出した。
「善い子に恵まれたのう……なぁ、──」
老人はわたしの走り去る後ろ姿を見て、そう呟いていた。彼が何を云っていたのか、わたしは後に知る事になる。