第12章 トレード希望
「鏡花さんが言っていたのだよ。『久々の再会なのに、目に光が無かった。すっかり闇の住人になったような気がした』とね」
太宰さんの言葉に目を伏せる。
「あの子は闇で生き、光に救われ、人の心に沢山触れて来た。泉の状態にもいち早く気づいていたのだろうな」
「……そんなつもりは無かったんですけどね……」
へへ、と頬をかく。
わたしと別れた後、鏡花ちゃんは敦くんに泣いて縋ったと云う。
『お姉さんが変わっちゃった。私の事嫌いになったのかな』
と。彼女は毎日のように泣いていたと云う。そんなに心配を掛けていたなんて思いもしなかった。社に戻ったらきちんと話をしなくちゃ。
そこまで考えて、ふと思い出す。
「太宰さん」
「何だい」
「わたし、探偵社に出入り禁止でしたよね……?」
そっと表情を窺うと、太宰さんは「嗚呼」とぽんっと手の平に拳を打ち付けた。リアクションがちょっと古い。
「そう云えばそうだったね。でももう一週間経っているのだし、問題ないんじゃないかな」
「……怒ってます?」
「太宰は寧ろ心配して食事もまともに摂っていなかったぞ」
「社長!?!?」
突然の社長の暴露にわたしはきょとんとした。太宰さんが社長の言葉に焦る。こんな姿は中々見られない、レアな所だ。
「太宰はずっと仕事もせずに泉の写真を見てはふらりと何処かへ出掛けては落ち込んで帰って来て、また何処かへ出掛けてたらしい。其れを見られたくなかったのだろうな」
「何で社長が知ってるのです」
「国木田と谷崎から聞いた。乱歩も云っていた」
太宰さんの恨めしそうな声にも臆さず社長は答えた。
そう云えばそうだ。潤一郎くんがマフィアに居た理由って何なんだろう。それを尋ねると、「私が命じた」と社長が答えた。
「マフィアに居るのは太宰の予想と乱歩の推理で判ってたからな。泉の状態と連れ戻せるなら戻せと谷崎に言ったんだ」
だからあの時、残りの任務はわたしを連れ戻す事、と潤一郎くんは言っていたんだ。でもわたしは探偵社の社員では無い筈。連れ戻す理由なんてあるのだろうか? そう考えていた時、丁度車のクラクションが鳴った。そうだ、国木田さん達を待たせていた。わたし達は慌てて車に戻った。