第2章 昼下がりの邂逅
カランカラン。程良い高さの音色の鈴が扉を開ける度に鳴る。わたしは扉を開けた先にいる人影を見つけ、大きな溜息を吐いた。
「……はぁ」
「如何したんだい、そんな大きな溜息を吐いて」
「一寸昔の夢を見たんです」
「昔?」
先に席に着いていた彼は意外そうに目を丸くさせ乍らそう問うた。
「そう、わたし達が出会った頃の夢。……あの、嫌な予感がするから帰って善いですか?」
「却下」
にこにこと笑みを浮かべ、楽しそうにわたしを見つめているのは、太宰治。一応、わたしの恋人である。
今日わたしは呼び出しを食らったのだ。わたしの仕事が休みの日を狙って、このカフェへ来るように、と。
「で、わたしを呼んだ理由は何です? 下らない理由だったら帰りますよ?」
「つれないなぁ、もう」
太宰さんは横に置いてあった紙袋をガサガサと漁った。
「今日は君にこれを着て欲しいんだよね」
そう云って包帯を巻き付けた腕で紙袋から広げたのは、カフェにはお馴染みのメイド服。だが伝統的なクラシックでは無く、可愛らしいデザインの物だ。
「……着ませんよ」
きらきらと期待を膨らませている太宰さんには申し訳ないが、わたしは絶対に嫌。だってこんな服を着るなんて、わたしにとっては公開処刑と同義だ。
「せめて敦くんに着せません? 絶対似合うと思うんですけど」
「敦くん? 今出張中」
「くっ……神はわたしを見捨てなさったのか……ッ!」
「うーん何云ってるか一寸分からないけど、取り敢えず着ようねー」
「嫌です」
此処はきちんと断らなくては。幾ら恋人でも、やって善い事悪い事の線引きはしなくてはならない。だから此処は太宰さんには諦めてもらって──
「着て欲しいなぁ……?」
「着ます」
うん、我ながら意志が弱い。と云うか云うべき事と真逆の事滑らした。失態。