第1章 社会勉強×ハンター試験
「アリス、朝」
ゆらゆらと体を揺さぶられて目を開ければ、超至近距離にお兄ちゃんの顔があった。
毎朝のことながら整った顔立ちだなと思いながら、お兄ちゃんのほっぺを伸ばしてみる。
「何してるの。ほら、起きて」
全く表情を変えないお兄ちゃんに頬を膨らませて不満を示し両手を伸ばせば、お兄ちゃんが私の両手を掴んで起き上がらせる。
大きなキングベッドがギシリ、と小さな音を立てた。
抱き上げられて洗面所に向かって顔を洗い、寝室に戻ってベッドに座らされ、ネグリジェのボタンを手早く外される。
昨日のうちに用意しておいた服(今日は真っ黒なワンピースだ)を着せられ、ニーハイとショートブーツを履かされ、再び抱き上げられてリビングへ。
椅子に降ろしてもらって、目の前でほかほかと湯気を立てるシンプルな朝ごはんを見て、漸く頭がはっきりしてきた。
「ん……おはよ、お兄ちゃん」
向かいに座ったお兄ちゃんが、真っ黒な猫目をパチリと瞬かせ、私の両手に暖かなコップを握らせる。私の大好きな、ミルク多め砂糖なしのカフェオレだ。
「はい、おはよう。アリス」
もきゅもきゅと朝ごはんを食べ終え、食後のデザートのフルーツ盛り合わせに手を伸ばしていると、そういえば、とお兄ちゃんが切り出した。
「キルが家出してね、俺もハンター試験行くことになったから、アリスも付いてきて」
………
キルって、誰だったっけ?
「キル…、キルア?弟だっけ?三男の」
口の中で大粒の葡萄の粒を転がしながら脳内をひっくり返して、キルがゾルディック家三男のお兄ちゃんが溺愛している跡取候補だと思い出した。
「そう。これ食べたら出るよ」
家出…。そっか、家出したんだ。
「って、外出るの!?私も!!?」
ガタン、と椅子から立ち上がって前のめりになる。
かれこれ15年近く『家』から出ていないのだ。こんなにあっさり出られるものなのか?
「アリスも。そろそろ社会勉強しろって親父たちも言ってるし。でも、試験中はガルから離れないで、なるべく俺の近くにいろよ」
そっか、お父さんたちが…。
ガルは私のペット、ではなく念能力だ。
「全然いい!ありがとう、お兄ちゃん!楽しみ!!」
勢いのままお兄ちゃんに抱きつけば、軽く抱き上げられる。
「うん。危ないことはするなよ」
「わかった!」
楽しみだなぁ。
