第8章 〜想いよ、届け〜
二人は、話に夢中になっていたが
気がつけば中庭は、黄昏色に
染まっていた。
薄っすら闇を帯びたうす紫色の空に
美しく染まる橙色の雲が
どこまでもたなびく。
『あー、楽しかった。もうこんな
時間だね、夕餉の支度を手伝ってくるね
雪姫さん、寒くない襖閉めようか?』
と栞は言ってくれた。
『大丈夫です、もう少しお庭を
眺めたいので』と断ると
『分かったー、夕餉、一緒にたべようね!』
と手伝に向かった。
黄昏色の空に、そっと紅葉をかざす。
(竹千代様、もう、きっと私の事などは
忘れてしまわれましたよね。
もし、いつかお会いすることが叶うなら
私をずっと支えて下さった感謝の気持ちを
お伝えしたい・・・どうか、お幸せで
あって下さい)そう、そっと願った。
雪姫にとっても竹千代からの
文は、遠い日の
思い出へと姿を変えていた。
それは、目の前に好きな人が
いるから・・・?
『ってか、何で家康様まで
雪姫さんの部屋で夕餉
食べてるんですか!』と
まるで、雪姫との時間を
邪魔しないでとばかりに
栞は言う。
『はっ、俺の家だし、俺が
どこで食べようと俺の勝手』
と、唐辛子を山の様に振りかける
『あっーそんなにかけたら
味分かんなくなるでしょ』
『煩いなー、これでいいんだよ』
『まぁ、まぁ、お二人とも
お食事は、静かに頂きましょう。
それに、食事は大勢で食べた
方が美味しいですからね』ニコッ
(/// 雪姫がそう言うなら ///)
もともと、家康は自室で食事を
とるはずだったが、雪姫様は
今はどこにも出れず自室で一人
では気が滅入るからせめて
お食事だけでも一緒にと
家臣からの余計な気を回され
この微妙な空気の中での食事なのだ。
(まっ、いっか、栞にも話あったし)
『あのさ、明日から、あんたに弓と馬を
教えなきゃならないんだけど
やる気ある?ないなら、無しって
事でどう?』
『えー、折角だしやるよ!』
栞は、姿勢を整え
『宜しくお願い申し上げます。』
と手をつけて、雪姫仕込みの
所作で頭を下げた。
『はー、やるんだ。』
『家康様、お約束して下さいましたよね
私からも改めて、お願い致します。』
『はー、わかった。でも俺
教えるなら手加減しないから
覚悟して』
『雪姫さんの鬼特訓に耐えた私ですよ
見くびらないで下さい!』