第8章 〜想いよ、届け〜
『将来を約束って、それって許嫁
ってこと』と栞。
『はい。そうです、でも十年も前の話
ですから、竹千代様はもうとっくに
竹千代様に相応しい方とお幸せに暮らして
おいでではないかと思います。
でも、この文だけが、記憶を失う前の私を
唯一教えてくるものなので手放せなくて
ずっと持っているのです』
『唯一?雪姫さんを教えてくれるって
どういうこと?』
『そうですね・・・ちょっとお惚気話に
なりますが、お聞きになります?』
雪姫は、悪戯っぽく笑った。
『聞きたい!』
『親が決めた相手だったかも
知れないですが私は、竹千代様に
恋をしてたのだと思います。
だからとても大事にこの文を
肌身に離さず持っていたのかと。
そして竹千代様も私に恋をしてくれた。
情熱的な文をくれるくらい
私を、想っていてくれていた。
そう信じてます。
そう思うと、記憶をなくす前の
私も恋する人がいて幸せだった
気がして文を見るたびに
温かい気持ちになるのです。』
と文を胸に当て
そっと目を閉じる雪姫は
とても儚げで今までないくらい
綺麗に見えた。
『そっか、じゃ竹千代さんに
もし、出会っても顔は
分からないのか・・・
ちょっと寂しいね。
でも、雪姫さんが竹千代さんを
大好きだったんなら、
もし出会ったら何か感じるんじゃない?
記憶は、なくても心はそれを
ちゃんと覚えてる気がするもの』
『そうだったら、良いですね・・・』
と紅葉を眺めた。
『わ〜っ綺麗な紅葉の葉。これは?』
『この文に、添えらてたものです
私の宝物です』優しい笑みを浮かべ
愛おしいものを見つめる雪姫の
横顔は、恋する女性そのものだった。
そして、ニコッとしながら
『さっ、次は、栞さんの番ですよ!』
とおねだりするように栞を見た。
『わ、私!』今度は栞が動揺する
番だった。
『うーん、武将の皆さん
皆んないい人だから皆んな大好き
だけど、好きの意味が違うかな
誰か特別にって人はいないかなー』
『信長様も?』と雪姫はわざと聞いた。
『うーん、武将さん達の中で
誰かを絶対選んで!って言われたら
信長様を選ぶかも知れないけど
偉大すぎて、恋愛っていうより
尊敬の方が強いかな。』
『そうなのですか』と
残念そうに雪姫は言った。
栞が自分の気持ちに
気づくのは、まだ先のようだ。