第8章 〜想いよ、届け〜
『もう、栞さんたら揶揄わないで
下さいよ』
『えー、だって気になる。
雪姫さんに思われるなんて
幸せな人だよ、その人』と
『そんなことないですよ。
好きじゃない人に思われても
嬉しくはないでしょう?』
『そっかな?私は、嬉しいよ。
気持ちには応えられないけど
自分の良さを分かってくれてる
から好きになってくれたんでしょ?
私なら嬉しいよ。』
『栞さん、凄いですね。
私そんな風に考えた事なかったです』
『で、誰なの?』
グイグイ踏み込んでくる栞。
『はー、栞さんには敵いませんわ
じゃ、私の想い人を教えますので
そこの風呂敷包みを取って頂けますか?』
『はーい、これだよね』と風呂敷包みを
雪姫に渡すと、大事そうに
手紙を取り出して
『これが私の想い人です。』と言った。
『えっこれラブ・・・恋文?』
『そうです、大好きな栞さんだけに
私の秘密を教えますね』と悪戯っぽく笑った。
『文の内容は分からないけど
竹・・千・代?さんて人が雪姫さんの
好きな人なの?』(えー、好きな人って
信長様じゃなかったんだ)
と、どこかでホッとしている自分がいた。
『でも、お城でお会いした事のある
方だった?失礼だけど、その名前の人
知らないよ。どこの人なの、大名の方
の息子さんとか?』と栞は、興味深々。
『いいえ、栞さん。城内の方でも
大名の御子息様でもございません。
今、どこで、どうしてるかも分からない
方なんです。』
『えっ、何それ?どういう事?』
『この文は、私が助けだされた時に
肌身につけていた文だったみたいです。
文には歌が綴られているだけ
なのですが、君を想う気持ちが
強すぎて、紅葉の葉の様に身を
焦がしてしまいそうって意味の
歌なんですけどね。』
『凄い、情熱的な歌。素敵。』
『十の子に、そんな情熱的な
歌はおかしいですから、何か
別の意味があったのだとは
思います。でも、十の子に
恋文を下さるって事は、
たぶん将来をお約束してた方
だったんだと思います。
そして、この文だけは手放さ
なかったということは、私も
竹千代様を凄くお慕いしてた
のだと思います。ということで
この方が私の想い人です』と雪姫は
寂しさを誤魔化すように微笑んだ。