第8章 〜想いよ、届け〜
雪姫は、家康が開け行ってくれた
襖の向こう側の中庭をうっとり
眺めていた。
池の水面に光がラキラキ反射し
桜の木には青葉が鮮やかに生い茂り
紅葉の葉もまだ青々としてた。
向かって右にはなだらかな小さな
丘があり、その中央に立派な松の木も
見えた。苔と白砂と色とりどりの小花の
コントラストがとても美しく
雪姫がため息をついていると
薫風が優しく雪姫の部屋に入り込む
そっと頬を掠め、髪を揺らして
去っていく。
中庭を、眺めていると
家康の心の中に、自分が入る余地など
ないと分かった悲しみが
少し癒される。
家康への想いに蓋をしようと
すればするほど、思いとは
裏腹に家康を想う気持ちが
どんどん溢れ出す。
届かない想いを抱えることが
こんなに苦しくて切ないものとは
思わなかった。
それならいっそ消してしまいたい
のにそれさえも、自分では
思い通りにはならない。
雪姫は、憂いを帯びた目で
小さなため息をついた。
その表情をそっと眺めていた栞
(寂しげな表情でも綺麗だなぁ・・・)と
さっき、一度声をかけたが
気づいてもらえず、そのまま雪姫に
見惚れてしまっていた。
『雪姫さん、きたよー』と
もう一度声をかけると
ハッとしたように
栞を見つめ『いらして下さったのですね』
とにっこり微笑んだ。
(/// あぁ、どっちも素敵///)もはや
憧れの芸能人を見る感覚。
『お茶持ってきたから、一緒に
お茶しよう』と、お茶を入れて
雪姫に手渡した。
そして、女子会が始まった。
一緒に、庭園を見ながら
『ここのお部屋から見るお庭
凄くきれいだね。』
『家康様が、当分歩けないから
気分転換にって襖を開けて
行って下さったの』
『へっ〜、優しいとこ
あるじゃない』
『あら、栞さん、家康様は
とてもお優しい方ですよ』
『えー、あんな可愛げないのに
無愛想だし、意地悪だし
信長様とは、大違いよ・・ね?』
(っ、て何で信長様と比べた?)
『確かに、信長様の優しさとは
違うように見えますけど
心根は、一緒じゃないでしょうか
信長様の方が大人ですが』ニコッ
『そう思う〜』と栞
栞が信長様が大人と言う部分だけに
同意した。