第7章 〜それぞれの自覚〜
家康に背負われ、家康の背中から
伝わる温もりと、心地よい揺れの中
雪姫は、さっきの口づけされたことを
思い出し、自分の唇を指でそっと触れた。
(何で、私に口づけなんか、家康様は
栞さんを想っているのでしょう?
それなのに何故?)考えても答えは
出ない。
ただ一つだけ
助けにきてくれたのが
家康だったことも
抱きしめられたことも
口づけされたことも
全部、嬉しいと思った
自分に気づいてしまった。
ずっと抱きしめられていたかった。
もっと触れていてほしかった。
そして、雪姫もまた自分の本当の
気持ちに気づいた。
(家康様には、想い人がいる。だから
好きになってはいけない・・・
そう、思った時点で、私は既に家康様を
好きになっていたのですね・・・)と。
(けれども、私がどんなに家康様を好きでも
家康様にこの想いが届くことはないの
ですよね。家康様の瞳の中に私は映らない。
分かってる。分かっているけど
せめて今だけ、背負われている今だけ
家康様を独り占めしていいですか・・・)
そう思いながら家康を、背中から
抱きしめるように ぎゅっとしがみつくと
もたれるように頬を背中に押し当てた。
そして、また涙が零れる。
目を閉じ、微かに聞こえる家康の
鼓動を子守唄に、雪姫はいつの間にか
眠りに落ちていた。
家康もまた、ぎゅっとしがみついた
感触を感じとり、眠ってしまった
雪姫を背負ったまま、どこか
遠くへ連れ去りたい衝動にかられていた。
雪姫を好きだと自覚した今、
(信長様のところへなど返したくない
ずっと、側にいたい・・・)そう思った。
一方で、例え雪姫が、信長様を好きだろうと
構わない。必ず俺が奪ってみせると
挑むような気持ちで城へと向かっている
自分も感じていた。
浅い眠りの中、雪姫は懐かしい
夢を見ていた。大好きな人に
こうして負ぶってもらった遠い日の
でも幸せで溢れていた頃の夢。
(大事ないか?桜奈)それに
答えるように、うわ言で
『・・竹千代様・・は大丈夫
強く・あら・・ね・ば』そう言って
また、スーッと寝息が聞こえた。
それは、家康の耳にも届き
自分の幼名を呼ばれた気がした。
だが、それよりも(身体が熱い。疲労と雨に
濡れたせいで、熱があがってきたか・・)
と雪姫の身体が熱くなりだしたのに
気を取られ聞き流してしまったのだった。