第7章 〜それぞれの自覚〜
雪姫は、刃を自分の方に向け
一切怯むことなく、淡々と冷気を
放つように男に言い放った。
『見くびらないで!!お前のような輩が
考えることなど、手に取るようにわかる
私を餌にし、信長様をお引きだそうと
しているのでしょう。しかし、それは
私が餌として価値があるうちの話。
このまま私が命を断てば、餌にもなるまい!!』
男は、雪姫の気迫に一瞬怯んだ。
しかし、男は、刀を抜き
『最悪、死んでも、生きてる
ことにしてお引きだせるからな』と
不気味な笑いを浮かべ雪姫に近づいて
きた。
刀を振り上げ、ジリジリと近づく男に
(くっ、脅しはきかぬか!)と男を
睨みつけ、後ろに後ずさりながら
雪姫がまた懐刀を構え直した、その時
『雪姫!!』と言う声とともに
土手を滑るように駆け下りてくる影
男が声のする方に気をとられる
隙に、更に男と距離を開けようと
雪姫は、足を引きずり走った。
それに気づいた男が追いかけようと
した時には、雪姫と男の間には
家康が立っていた。
雪姫を背中に庇うように
しながら『この人は
あんたの汚い手で触れていい
女じゃないから!
この人をこんな目に合わせて
あんた、死ぬ覚悟は、できてんだよね!』
家康が構えた小太刀が雨の中でキラッと
光ると、『うるさい!そこを退けー!』
と切り掛かってきた男の腹を
シュっと、真一文字に滑るように
小太刀 が動いた。
『うっっ』と言う、呻き声とともに
男は、その場にドサっと倒れた。
家康は、刀を一振りし鞘に戻すと
振り返り、雪姫の方を向いた。
それから今まで見た事のない
怒りに満ちた険しい表情で
近寄ってきた。
そして、放心状態の
雪姫が硬く握り締めている
懐刀を、指を一本ずつ開き
取り上げると下に投げ捨てた。
次の瞬間、雪姫を思いっきり
抱きしめた。
『・・・!』
『あんた、ほんと無茶しすぎ
俺の心臓、止める気?』と
言うと、更に強く抱きしめた。
抱きしめながら、家康の身体が
小刻みに震えているのが分かった。
泣いているようにも思えたが
よく分からなかった。
家康は雪姫を抱きしめながら
自分から溢れ出る気持ちを
抑えられなくなっていた。
雪姫だけは、何があっても
絶対失いたくない。
何があっても離したくない。
(好きだ・・・!!)
その想いをはっきり自覚した。