第7章 〜それぞれの自覚〜
『栞さん、後はもう大丈夫ですから
今日は、ゆっくりお休み下さい』
『ありがとう雪姫さん、
今日は、気が張ってたから
正直、ちょっと疲れた。
お言葉に甘えさせて頂くね』
と言って、自室へと戻って行った。
それから、雪姫は、宴の後片付けを
手伝った。
片付けを始める前に、雪姫は
信長様から後で酒に付き合えと
言われていたので、手早く
片付けを終え、天守閣に向かった。
『信長様、雪姫にございます
お酒をお持ち致しました。』
と言うと、『入れ』と声がし、
スッと襖を開けると、マントを
羽織ったまま、回り縁に座り
月を眺めていた。
『お待たせ致しました』と側により
盃を信長に渡し、酌をした。
信長は、一気に飲み干し、
また月を眺めた。
『信長様、栞さんが仕立てた、マント?と
栞さんはおしゃってましたが、とても
お似合いですね。素敵です』
すると、『わしも、この上なく気に入った
外す気にならんくらいな。』とニヤリと笑った。
『そうですわよね、信長様の
お気に入りの栞さんが丹精込めて
仕立てて下さったものですもの。
栞さんのお心まで頂いたようで
嬉しかったのでは、ございませぬか?』
含みを持たせちょっと揶揄うように
雪姫は微笑んだ。
『まあな』
(貴様には、敵わんな、見通されて
いたとは。わしも、やきがまわったかのう)と
穏やかな顔でふっと笑った。
信長は、命がけで自分を救ってくれた
栞に対し、有り難いだけではない感情を
抱いていた。それが何なのか、湯飲みを
雛鳥でも抱えてるような、優しいく
愛おしい仕草を見た瞬間、理解した。
人にお茶を盛大に吹きかけたと思ったら
揶揄いに本気で反応し、観念したかの
様に目を瞑り涙を流す姿
そうかと思うと睨みつけ
今度は、子供の様に泣きじゃくる。
忙しい栞の姿に目が離せず
気づけば、どんどん心惹かれていた。
姫修行にも弱音一つ吐かず
自分の精一杯で応えようとする健気さ。
そして、今日、雪姫とはまた別の
美しさを目にし、マントまで貰い
栞に惚れている自分を認めざるを
得なかった。
雪姫もまた、幼い頃から
深い慈愛を持って自分を見守ってくれる
信長様の優しい眼差しをずっと見てきた。
でも、その眼差しが、栞に向けられるとき
自分とは、別の愛おしさだと
湯飲みを持つ栞を見つめる信長様から
既に気づいていた。