第7章 〜それぞれの自覚〜
そっと家康を見つめていた雪姫も
複雑な思いを抱いた。
(家康様は、信長様が栞さんを
口説いているのを、あんなに
不機嫌になられて、信長様に厳しい
目を向けてらっしゃる。
もしかして、嫉妬?それは
栞さんに想いを寄せられて
いる・・か・ら・・?)
その想像にみるみる悲しげな表情を
浮かべる雪姫。自分でも驚く程
気持ちが沈んでいくことに戸惑った。
(なぜ、こんなに悲しくなるのでしょう
家康様には、想い人がいらっしゃる。
それはきっと栞さんの様な方に
違いないと、自分で思っていたでは
ないですか!)と自分を説得するように
呟いてみたものの、一度溢れた感情を
今度は、どうやって止めていたのか
忘れてしまったかのように、表情は曇った。
その雪姫に、ちらっと目をやった家康。
今度は、その憂いを含む雪姫の姿が目に入った。
(やっぱり、そうだよな・・・
好きな男が、目の前で女を口説くのを
みたら、そんな顔するよな・・
前に、あんなに、おっかない顔して
傷つけたら許さないって言ってた癖に
なんなんだよ!傷つけてんの信長様、
あんたじゃないか!)と思ったが
同時にそれは自分が推測が正しいと
証明された気分だった。
光秀は、その二人の想いを察し
何やら、ややこしい事になりそうな
予感を感じながら見ていた。
信長もそれには気づいていた。
打ち上げ会の様な、仲間うちだけの
宴も、盛り上がりの余韻を残しつつ
お開きとなった。
雪姫は、『栞さん、お疲れ様でした
今日を境に、名実ともに栞さんは
織田家ゆかりの立派な姫君です。
一か月、本当に努力を重ねられました。
それに、信長様への贈り物、素晴し
かったです。私も自分のことのように
嬉しく、感謝申し上げます。ありがとう
ございました。』
『私が頑張れたのは、雪姫さんの
おかげだよ!雪姫さんが居なかったら
こんな『姫』なんて呼ばれる姿には
なれなかったよ。こちらこそ、出来の
悪い弟子を見捨てず指導してくれて
ありがとうございました』と栞。
『えっ?弟子!栞さんたら
じゃ、私のお裁縫の師匠は栞さんね。
師匠、お裁縫の手解きを宜しく
お願い致します』とわざとらしく
畏まっていった。
『はい!まっかせなさい!!』
と栞は、胸を張り、ポンと自分の
胸を叩き、おどけた。
二人は、目を見合わせて
同時にクスクス笑いだした。