第6章 〜二人の姫君〜
お披露目会当日
その日は、雪姫と栞は大忙しだった。
朝から、会場に飾るお花を生け
政宗に手伝ってもらいながら
宴会に出す料理を栞中心で
調理した。
『政宗、この味付けで、大丈夫かな?』
『おっ!どれどれ』と政宗が味見すると
『栞やるなぁ、ばっちりだ』と
褒めてくれた。
『やったー』と嬉しそうに声を上げた。
各論の授業で、栞はあっという間に
武将とも仲良くなり可愛がられる
ようになっていた。
それぞれの武将は『様』付けで
呼ばなくていいと言ってくれて
栞も素直に従った。
栞も自分の事は呼び捨てで
いいと雪姫にいったのだが
雪姫は、『呼び捨てはどうしても
心苦しいのでできないですが
栞様が様付けが嫌なのであれば』と
『栞さん』と呼んでくれた。
家康とはほとんど会って
いなかったので会っても『様』付けで
まだ呼んでいた。
栞のお披露目会は、花見も兼ねていた。
満開の桜の花びらが、はらはらと
舞い散る庭で、信長の配下の
各大名も招待され開かれた。
栞も、雪姫と千草に手伝ってもらい
淡い桃色の小袖に、薄い黄緑色地に
桜の花が刺繍された色打掛を着せて
もらい、化粧を施してもらった。
栞は、もともと童顔ではあったが
小顔でくりっとした黒目の大きな瞳
黒く長い睫毛、小さいが鼻筋の
通った鼻、ぷっくりとした小さめの唇。
化粧を施した栞の顔は、可愛らしい
美しさを放っていた。
『栞さん、とても愛らしく
可愛らしいですわ』と雪姫
『本当に、お美しいです。どこから
どう見ても、良家の姫君です』と千草。
『うふふ、お二人とも褒めて
くれてありがとう!今日は信長様や
鬼特訓してくれた雪姫さんに
恥をかかせないように頑張るね!』
『まぁ、鬼特訓だなんて、人聞き悪い
ですよ、栞さん』とクスクス雪姫は笑った。
二人を微笑ましく見守る千草。
(栞様と過ごす雪姫様は
感情の表現が自然になり
表情も一段と豊かになりました。
栞様のお陰です。本当に
ありがとうございました)
と心で深く感謝していた。
雪姫は、栞と過ごすうちに
自然と表情を作ることが
できるようになっていた。
記憶は戻らないままだったが
麗らかな春の様な栞の素直で
純粋な感情表現に感化
されるように雪姫の感情の氷雪は
雪解け水となり、雪姫の
心から溢れる出る様になって
いたのだった。