第6章 〜二人の姫君〜
『雪姫、後は任せた。
今後は、栞を貴様と同じく
織田家ゆかりの姫としての
立場をとらせるつもりだ
その立場に、相応しい姫に
栞を仕込め、よいな!』と信長は
雪姫に命じた。
『はい。承知致しました。
信長様の命とあらば、力の限り
栞様をご指導させて頂きます。』
と雪姫は、承諾した。
二人が退室したあと、信長は『これは面白い』
と、肩を揺らして笑った。
(栞よ、貴様もバカな奴よ。黙って
客人でいれば良かったものを・・・
この先貴様は、地獄を見るであろうよ・・・)
信長の意地悪な企ては
見事に目論見通りになった。
『では栞様、早速、姫君としての
修行を始めさせて頂きたいと思います。
心のご準備は宜しいですか?』
『あ、はい。雪姫さん宜しくご指導
お願い致します』
(雪姫さんなら、きっと優しく
教えてくれるよね。よし!一生懸命
頑張ろう!)と決意した。
しかし、栞の目論見は見事に外れた。
『はい、承知致しました。では』
とおもむろに立ち上がった雪姫は
打掛を脱ぎ、手慣れた手つきでタスキをかけ
頭に鉢巻までまいて、仁王立ちになり
あっと言う間に鬼教官へと変貌を遂げた。
『信長様にお任せ頂いた以上
栞様を立派な姫君にするため
一切の手抜きは致しませぬので
心して、修行にお励み下さいまし!』
(へっ?)と呆気にとられる栞を
尻目に『姫修行』鬼特訓が始まった。
雑巾がけをすると
『栞様!!腰が入っておりませぬ!
それでは床は磨けませぬ!』
水汲みを、すると
『栞様!水が零れております!
それでは、いつまでも甕がいっぱいに
なりませぬ!』
お茶を立てると
『栞様!足が崩れております!姿勢も
曲がっております!』
お花を生けると
『栞様!それではお花の美しさが
死んでしまいます!』
お琴を弾くと
『栞様!音が間延びして
美しくございませぬ!』
舞を踊ると
『栞様!身体が、硬すぎます
もっと、柔らかく、しなやかに!』
まぁ、朝から晩まで『栞様!栞様!栞様!』
と呼ばれては、注意をされる。
日に日に、げっそりとしていく栞。
それを気の毒そうに、傍目から眺める
武将達。
人が、変わったような鬼教官ぶりを
発揮する、雪姫に
(雪姫だけは、絶対、怒らせない方がいい。
怒らせたら、間違いなく信長様より
おっかないぞ、あれ)と縮み上がった。